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第320話 side景
修介はスマホを見つめたまま、特に慌てる様子も無く声を発した。
「ごめん、ちょっと電話してきてもええ?すぐ戻るから」
「……うん。いいよ」
笑顔でそう返したけど、途端に胸が渦巻くようにモヤモヤとし出す。
あ、電話、するんだ。その子に。
気になるなら、後にしてとか言えばいいのに。
なんでこんな女々しい事を僕がしているんだ?
修介は再度リビングから出ていった。
ドアが閉められてしばらくすると、声が聞こえてくる。
聞き耳を立てるわけじゃないけど、どうしても気になってしまう。
ここからじゃとても聞き取れないけど、修介の、あぁ、とかうん、とか相槌をするのがなんとなく聞こえて、その後、ははは、と笑った声が聞こえた。
随分、仲良さそうに話すんだね。
女の子の名前が頭から離れない。
高宮莉奈という名前から、華奢で小さくてふんわりとした服が好きな女の子なんだろうな、とか勝手に想像した。
ドアの方を向いていると扉が開かれたから、特に気にしていないかのように、すました顔をしてカップを手に取り、コーヒーを一口飲んだ。
はぁ、何やってるんだか。
僕の心中を見抜いたのか、修介の方から話しかけてきた。
「ごめんなぁ電話して。最近よく電話で話してるんよ」
「えっ?」
最近、よく、電話している?
聞き捨てならない。
僕の知らないところで君は女の子と電話してたっていうの?
僕には電話やメールの一本も寄越さないっていうのに?
女々しくなんてなってる場合では無かった。
僕は思い切ってその名を出してみる。
「へぇ、高宮莉奈ちゃんって子と?」
「あっ、見たん?名前」
修介は笑いながら僕の隣に腰を下ろして、スマホを手で回したりしていじり出した。
「バイト一緒の女の子で、同じ大学なんよ……あぁ、景、一回見た事あるやんか!俺をバイト先まで迎えに来てくれた日、一緒に話してた子やで」
「ふぅん」
あぁ、あの子か。
修介よりも小さくて、華奢で、可愛い子。
冷静に、冷静に……。
僕は頭で何度も繰り返しながら演技した。
「で、なんでその子とよく電話してるの?」
「それがなぁ、莉奈の付き合っとる奴がちょっと問題あって……なんていうか、ちょっとDV気味いうか……今も、彼氏と電話してたら喧嘩になったみたいで、相談に乗ってあげて」
「……」
あまりにも自然だったからびっくりした。
莉奈って呼んでるんだ、その子の事。
……あ、なんだろ、この感情。
そんな時、修介は切り出した。
「あの、景、怒らんと聞いてくれる?」
そう言って僕の顔色を伺うように覗き込まれる。
なんとなく嫌な予感がするけど、それを悟られないようにまた演技をした。
「……うん。怒らないよ。何?」
「あ、あの、実は、景の誕生日にここに来れんかったんは、莉奈の事が関係しとって」
「え?」
修介は、七月二日に何故僕と会えなかったのかを話し始めた。
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