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第321話 side景
* * *
「せやから、あん時もほんまはこっちに来たかったんやけど、勝手に置いて行くわけにもいかへんし」
「へーぇ」
修介は、ゆっくりと、でも少し落ち着かないような様子で僕に話し続ける。
僕はとりあえず笑顔で、大人しく相槌を打っていた。
あの日、なぜ来れなかったのかはよく分かった。
しょうがない事だろう。
その彼氏とやらはどのくらいの暴力行為をしているのかは分からないけど、莉奈ちゃんを置いてはいけないし。
でも、はいそうですか、という気にもなれない。
修介の話を聞いているうち、僕の胸の内が何とも言えない不快感によって侵され始めているのに気付いた。
分かるよ。修介、優しいもんね。
困っている人がいたら、助けたくなっちゃうんだよね?
「莉奈もちょっとは考えてるんらしいんやけどね、彼氏とこれからどうしようか。怪我も何度かさせられてるし」
「へぇ」
「俺は別れた方がええって言うてるんやけど、普段は優しい人だからって、莉奈はなかなか決断できずにおんねん」
「ふんふん、へーぇ」
修介は、話始めた時は僕に謝ってばかりいたけれど、途中から話の矛先を莉奈に向けていた。
きっと自分でも気付いてないんだろうなと思うと、やっぱり不快な気分になって来て、つい適当に相槌をしてしまう。
修介はそんな僕にイラついたのだろう、眉根を寄せて僕の顔を覗き込んできた。
「もうっ、ちゃんと聞いとるん?景はどう思う? やっぱ、暴力振るうような奴とはきっぱり別れた方がええよね?」
「別れるべきだとは思うけど、最終的に判断するのは修介じゃなくて彼女だよ」
――僕は不機嫌だ。
なぜ?僕には内緒で二人で電話をしていた事に?
誕生日にここに来なかった事に?
いや、それじゃない。それはしょうがない事だ。
なら、修介がその子を莉奈と呼んでいる事か?
そんな、子供みたいな事で?
答えが見つからない事にさらにイラついて、まるで修介に八つ当たりするかのように、僕は明らかに強くて硬い声を出した。
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