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第323話 side景

「さ、さっき、怒らんって言うた!」 「怒ってないよ」 「じゃあなんでこんな事してるんっ?」 「さぁね。なんでだろう」 僕にも分からない。 けど、この胸がズキズキと痛い。 修介はこんな状況に焦っているようで、瞬きを何回か繰り返してから眉間に皺を寄せて問いかけた。 「景、もしかして俺達の事疑っとるん?」 例え莉奈が修介を好きだろうが、修介が異性を好きになるはずが無いのは分かっている。 それなのに、何故だろう。 何故こんなに不安になっているのだろう。 何も答えられないでいると、修介はソファーの上でずりずりと頭を横に振った。 「心配するような事はなんもないで!俺に恋人がいる事だって、リ……高宮さんは知ってるし!俺の事、そんな目で見た事なんて無いと思うで? 俺が先輩なのに、なんかいじられる事多いし……」 和ませようとしているのか、微笑交じりに言葉を紡いだ。 それが気に入らなかった。 まるで、莉奈との楽しい会話を思い出しているかのようで。 修介の中には、僕の知らない世界がある。 そう認識してしまったら、このやり場のない気持ちをまた目の前の修介にぶつける事しか方法が無かった。 「そんな目で見てないってどうして言い切れるの?直接聞いたわけじゃないんでしょう、彼女に」 「えっ?いや、聞いてへんけど、彼氏がおるんやからそんなんありえへんし、」 「そんなに都合よく話聞いて、優しくして、彼女の王子様にでもなったつもり?」 遮るようにそう言うと、修介はジッと僕の目を見たまま動きを止めた。 その瞳からは明らかに困惑の色が見て取れた。 時が止まったかのように、部屋に沈黙が流れる。 あぁ、僕は何がしたいんだ。 これ以上この空気を険悪にさせても、何も得はないのに。 「……なんでそんな事言うんやっ?」 修介は呆れたのか、腕を振って手を払いのけた後、僕の身体を押して上半身を起き上がらせた。 「相談くらい乗ってあげてもええやんか。莉奈とはなんもない言うてんのに、なんで俺の言う事信じてくれへんの?」 「彼女と電話してたなんて事、今まで言わなかったじゃない、一言も。何かやましい事があるから言わなかったんじゃないの?」 修介はあからさまに更に顔をしかめてムッとする。 「それはっ、別に隠してたつもりやなくて、こんな事言うても迷惑かなぁと思って!最近、景忙しかったし……やけど、結局言うたんやからええやんか!なんでもかんでも、景に逐一報告せなあかんの?」

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