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第330話 side景

ハッとして目が覚めると、修介が僕の右手を握ってくれていた。 「あ……ごめん。僕寝ちゃってたんだ」 「うん、少しだけ。寝顔までもイケメンやった」 「ごめん。起こしてくれれば良かったのに」 心地良くて、つい。 そう言って軽くキスを落としてからお互い服を身につけて、リビングへ移動した。 修介をソファーに座らせ、冷凍庫から買っておいたカップアイスを取り出し、修介に手渡した。 テーブルの隅には、修介からプレゼントされた箱が置いてある。 そういえば、詩音の事をまだ話せていなかった。 プレゼントが一緒だったって事は、今度詩音と修介を会わせた時に言えばいいだろう。 僕もソファーに腰を下ろしてから切り出した。 「修介、日高詩音って知ってる? 今一緒に仕事してるんだ。気が合って仲良くしてるんだけど、詩音にも修介との事言ってあるから、今度紹介してもいい?」 「ええっ、日高詩音くん? もちろん知っとるよ!ネットでは、景にソックリやって噂になっとるし。ていうか景、そんなに俺の事周りに話してて大丈夫なんか……?」 「大丈夫だよ。詩音だったら」 「そ、そうなん?」 修介は少し驚いた様子だったけど、スマホを取り出して何やら操作し始めた。 「景に似てるって書いてあったから、実は気になってこの前検索してみたんよ。そしたら景にそっくりな画像あったから、思わず保存してん」 修介は無邪気に笑いながらほい、と画面をこちらに見せてくれた。 そこには、白シャツを着た詩音。 首元を思い切りはだけさせて、濡れた髪の毛を手でかき上げ、顔が濡れて、水を滴らせていた。 そして薄っすらと笑みを浮かべ、こちらを見下す。 見つめていると、なんだかその瞳に吸い込まれてしまいそうだった。 「これ、景の写真集の表紙に似てるんやない? ほら、この笑った時の目のシワとか、この唇とか口角とか、ちょっと雰囲気は違うけど、景と兄弟って言ってもおかしくないで?」 「ふーん……」 「うーん、薄目で見たら景なんやけど、どこが違うんやろ……ここらへんがもっと……」 修介はその詩音の写真を目を細くしながら見て、あーだこーだ言っている。 僕はなんだか途端に胸の内がモヤモヤとしてきた。 せっかく持ってきたアイスも食べずに、僕に似ているとはいえ、他の男を見ている修介にむかむかしてしまう。画像も保存したって言っているし。 僕は無言で修介の分のアイスの蓋を開けて、スプーンで掬った。 まったく。僕は抹茶味はあんまり好きじゃないんだよな。 掬ったアイスを自分の口に含むと。 「修介」 「ん?」 そのまま修介の唇を塞いで、舌の上でほろ苦い味のするアイスを味わった。 味が無くなっても、虐めるつもりで僕はわざと唇を離さない。 僕以外の男を見つめていた罰だよ。なんてね。 唇を離してから、僕は修介の手からスマホを取り上げる。 「その、僕に似てるっていう日高 詩音と藤澤 景の事、どっちが好きなの?」 「……藤澤 景……」 「だよね。じゃあ、僕を見てくれる?」 修介は顔を紅くさせながら頷いた。 「今日は僕が食べさせてあげるね。全部口移しで」 「えっ!嫌や!普通に食べたいんや俺はっ!」 結局、嫌がる修介を無視して、半分以上は食べさせてしまうのだった。

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