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第333話

電車を降りた後、自宅までの道のりを歩きながらリダイヤルボタンを押して莉奈に電話を掛けてみた。 『もしもし』 電話口の向こう側からはいつもの覇気がない、やっぱり沈んだ声が聞こえた。 「莉奈?さっきごめん。もう一人やから。何かあったん?」 『北村さん。今何処にいるんですか?』 「今? 電車降りて、家に向かって歩いてるとこ」 『今、北村さん家の前にいるんです』 「はっ?」 素っ頓狂な声を出してしまった。 なんでまた、俺の家に来ているんだ? 『すいません、押しかけちゃって』 「え、いや、別にええんやけど、あと少しで着くからちょっと待っとってくれる?」 『はい、すいません』 今日の莉奈はよく謝る。 何か事情があるに違いない。 電話を切って早歩きで家の方へと向かう。 蒸し暑くて、じっとりと汗ばんだ。 アパートが見えてくると、階段に莉奈が座り込んでいるのが分かった。 こちらに気づかずに、膝の下に手を入れてつま先をコツコツと合わせながら下を向いている。暗くて表情は読み取れなかった。 「莉奈」 声をかけると莉奈は顔を上げた。 予想通り、顔と鼻の頭を赤くした涙目の莉奈がそこにいた。 俺と目が合った途端、気が抜けたのか、みるみるうちに莉奈の目からは涙が溢れ出てくる。 「北村さん」 俺はギョッとした。まさかここまでボロボロに泣いてるなんて思わなかったから。 俺も膝を折ってしゃがみこみ、リナの顔を覗き込んだ。 「ど、どうしたん?何があったん?」 「すみません」 莉奈は相変わらず謝るばかりで、この状況がさっぱり理解できない。 ヒックと嗚咽を漏らす莉奈を見てどうしたらいいか分からなかった。 とりあえず、リュックからポケットティッシュを取り出した。 「とりあえず、落ち着いて」 莉奈は差し出されたそれを見てますます涙を滲ませた。 手を伸ばしてパッと受け取ると涙を拭いたり鼻を噛んだりしている。 莉奈のこんな姿を見たのは初めてだった。 俺の知っている莉奈は、サバサバしていて、いつも笑っていてムードメーカーで。 嫌な事があっても気合で吹き飛ばすくらいの元気な女の子。そんな印象だったのに。 濡れた睫毛が長くて、ポロポロと涙を流す様を見ていると、やっぱり普通の女の子なんだなと思った。 鼻をすすりながら泣きすぎて呼吸困難になっている莉奈の肩に手を伸ばして、優しくさすってあげた。 いつだったか、景がそうしてくれたみたいに。 自分はよく泣くくせして、他人が泣いているのを見るとどうしていいのか分からなくなる。 「とりあえず、俺んち上がれば?ここ暑いやろ?」 「え、また、上がってもいいんですか?」 「だって、莉奈泣いとるし、こんな所にいつまでもおるわけにいかんやろ」 「……すみません」 俺は莉奈の腕を引っ張って立ち上がらせてから、階段を上り部屋に招いた。

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