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第334話
莉奈をソファーに座らせて、コーヒーを入れてテーブルの上に置いた。
俺は向かい合うようにカーペットの上に胡坐をかく。
莉奈はいただきます、と言って無言でコーヒーを啜った。
部屋に莉奈を招いてしまった。
景はまた怒るかもしれないけど、でも事情が事情だし、しょうがない。
泣いてるんだから放っておけないし。
莉奈が帰ったら、ちゃんと電話でこの事を景に伝えよう。
俺はしゅんとする莉奈に、わざと明るい調子で話しかけた。
「彼氏となんかあったんやろ」
「……」
「またなんか酷い事でも言われたんか?もし辛いんやったら、別れた方がお互いの為やと思うけど」
「別れました」
予想外の言葉に、一瞬動きが止まってしまった。
「え、別れたん?」
「ゆきちゃんに、話があるって言ったら、駅前のカフェに来てくれたんで、そこで言いました」
「俺に、電話してくる前?」
莉奈は頷いた。
だから電話で涙声だったのか。
別れたって簡単に言うけれど……
「大丈夫だったんか?彼氏、ちゃんと納得してくれたんか?」
あのゆきちゃんの事だから、すんなり受け入れてくれるとは思わなかった。
どこか殴られたりしなかっただろうか。
心配になっていると、莉奈は罰が悪そうに頷いた。
「凄くビックリしてましたけど、他に人もいたからか、手は出されてません。最後にクソ女って言われて、怒ってそのまま帰っていきました」
「クソ女って……」
俺はまたぎょっとした。
多分、ゆきちゃんとのやり取りを思い出したのだろう、莉奈の目にまたどんどん涙が溜まっていった。
少し戸惑ったけど、落ち着くんならと、俺は莉奈の手の上に自らの手を置いて、ポンポンと叩いたりした。
「私、酷いんです。ずるくて、醜くて、自分が嫌いなんです」
いきなり切迫詰まったようにそんな事を言うから驚いた。
そんな風に言うなんて、よっぽどゆきちゃんに酷い事を言われたんだろうな。
「そんな事あらへんよ。よく頑張って言ったと思うで」
「違うんです。北村さん、私」
涙はもう止まってくれたみたいだから安堵したけど、いつになく莉奈の真剣な表情を受け取り、身動きが取れなくなってしまった。
「私、北村さんの事が好きなんです」
俺は手を引っ込めて目を見開いた。
突然の告白に、心構えなんてする余裕は無かった。
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