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第335話
「ずっと悩んでたんですけど、私の方から別れを告げました。北村さんが、別れた方がいいって言ってくれたから」
莉奈は堂々としていて、俺から目を離さなかったけど涙が滲んでいた。
「北村さんと話す度に嬉しくて、いつのまにか、ゆきちゃんよりも考える時間が多くなって。今日、ゆきちゃんから電話が来た時、はっきり気付いたんです。北村さんとの電話の方が楽しいのにって。だから北村さんにもこの気持ちを聞いてほしくて、家まで来てしまいました」
最後は堪えきれずにまた涙が溢れ出て、俯きながら何度も涙を片手で拭っていた。
どうしたらいいのか分からずに、焦って莉奈の膝の上に置かれた手をさすった。
「すみません」
「あぁ、もう泣くなや」
「そうやって、優しくしないで下さい」
「じゃあ、泣き止んでや……」
――[彼女、修介の事が好きなんだろうね]
景に言われた通りだった。
自分の鈍感さに嫌気がさす。
莉奈はただのバイトの後輩で、自分の事を恋愛対象にしているだなんて思ってもみなかった。
優しくしないでって言われても、どこをどんな風にすればいいのか俺には分からなかった。
ただ景にやられたら落ち着く事を莉奈にしたら、それは間違っているのか?
でもきちんと、これだけは伝えなくては。
「あんなぁ。俺、付き合ってる人おるやんか」
「はい」
「莉奈の気持ちは嬉しいんやけど、その人の事、大事やねん。ごめん」
そう言って俺は頭を下げた。
「いいんです。気持ち伝えたかっただけですから」
笑いながらも目が潤んでいる莉奈は何処か儚げだった。
笑ってくれたから俺もつられて微笑んだ。
「そっか。ありがとうな」
「北村さん。この際だから、本当の事言ってもいいですか?」
「ん?ほんとの事?」
「連絡先を交換した時、彼女さんがいるかどうかを聞いたのは、実は彼氏とうまくいってなかった時で。もしいないって返事だったら、好きになっちゃおうかと思ったんです」
思い出した。莉奈からのメール。
まさか、そんな頃から俺の事慕ってくれていたなんて。
全然気が付かなかった。
「そっか。ありがとう。こんな俺を好きになってくれたんやね。俺告白なんてされるん慣れてないからどう言ったらええのか分からんのやけど」
「私じゃだめですか?」
莉奈の冗談なのか本気なのか分からない発言に戸惑ってしまう。
でもすぐに小さく、「なんちゃってー」と笑った。
それに安堵して、フッと笑みが零れた。
莉奈の本気がどこまでか分からないけど、またちゃんと答えよう。
そう思って莉奈の手を再度ポンポンと叩いた時だった。
「ごめん。俺、ほんまに彼女の事好きやねん。莉奈の事、可愛い後輩にしか見えなくて、ごめ……」
「お取り込み中悪いんだけどさ」
突然の低い声が耳に入り込んできて、ビクっとした俺は声のした方に視線を移した。
景が、玄関先で俺たちを見下していた。
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