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第343話 side景
その日から、夜眠れない日々が続いた。
ベッドに潜り込むと、この場所で彼を抱いた時の情景を思い出してしまい、頭から離れず、辛かった。
だから僕はソファーで眠る事にした。
しかしソファーでも同じ事だったから、もう自分の家で眠るのは諦めた。
ホテルや友人の家に泊まったり、時には車の中で仮眠を取ったり。
昼間は仕事が立て込んでいたのが幸いだった。
修介の事を考える隙間なんてないくらい、僕は仕事をこなした。
一人になるとつい考えこんでしまうから、夜は出来るだけ誰かと一緒に過ごした。
誰でも良かった。
仲良くしている俳優、事務所の先輩、後輩、宮ちゃんでも、タケでも、桜理でも。
修介からは、あれから何度か着信があったけど、どれも仕事中で取れなかった。
でも、掛け直す事も出来なかった。
まだちゃんと、修介とは冷静に話せないと思ったから。
毎日誰かと一緒に過ごすことで、修介への執着心を徐々に減らしていった。
周りに修介との事は言っていない。
きっと僕が悩んでいるだなんて誰も気付いていないだろう。
だって僕は演技をして明るく振舞っているのだから。
現にこうやって、目の前にいるタケは全く気付いていないし。
「景ちゃん、最近すげー付き合いいいじゃん。どしたの?仕事のストレス発散?」
「別に?ただ単に遊びたいってだけだよ。そういう時期あるでしょ」
タケの友人に紹介してもらったダーツバーに来ていた。
雑居ビルの三階にあるここには、芸能人はよく出入りしている。
友人たちと二対二で対決して僕らが勝利し、一時休戦して奥のバーカウンターにタケと並んで座っている。
「へぇ、そうなんだ?修介とは遊んでねーの?」
「うん。忙しくしてるみたいで、最近会えてないんだ」
「そっか、就活とかよく分かんねーけど、試験とか面接とか大変みたいだね。俺ぜってーそういうの無理ー」
「そんな事言って、タケだってモデルの仕事のオーディション受けた事あるでしょ」
「あれはほらー、ジャーマネに言われて仕方なく」
タケはスマホを取り出し、「はいチーズ!」と無邪気に言っていつものように写真を撮る。
そのまま操作し始めたから、手持ち無沙汰になった僕も無意識にスマホを取り出して、電話帳を開いて適当にスクロールした。
明日は誰と過ごそうか。
最近、そればかり考えている。
タケと桜理は親友だから、短期間でいくら会っても文句は言われないけど。
他の友人にはもうほとんど会ってしまったから、そろそろ誘いづらくなってきた。
とりあえず明日の夜は、桜理が僕のマンションに来る事になっている。
本当は違う場所が良かったけど、桜理のマンションに何度か泊まらせてもらったから、嫌だとは言えなかった。
桜理に、明日の予定を聞こうとタップして文字を打っている最中、ふと思い浮かんだ事があった。
そういえば、僕のマンションに来たいと言っていた友人が一人いた。
詩音。
タイミングが悪くて、なかなか予定が合わなかったのだ。
詩音も誘ってみようか。桜理とは共演しているから、面識はあると言っていたし。
詩音の事で桜理に確認を取ると、あっさりOKをもらえたから、詩音に誘いの文面を打っていった。
「ねぇ景ちゃん、修介のどんなとこが好きなの?」
詩音に送れたのを確認した時、タケに唐突に聞かれたから顔を上げた。
タケはこちらを向かずにスマホをタップして、今撮った写真の加工作業をしていた。
タケの言葉に僕は少し困惑して、だけど何でもないかのように笑った。
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