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第344話 side景
「何?そんな事訊いてくるなんて珍しいね」
「いや、単純にそう思ってさ。他人にはない魅力的なところがあるから、好きになったんでしょ?俺、今ちょっと気になる子がいてさ。なんか今までと違う気がするから、教えてほしいんだよ」
「え。タケ、ようやくフラフラするのはやめたの?」
「うーん。分かんね。最近同じ事務所に入って来た年下の子なんだけどね。うかつに手ぇ出せないっていうか、適当な発言はその子の前では出来ないっていうか」
タケがこんな事を言うなんて珍しい。
気の合う美女がいればすぐにでもお持ち帰りするような奴なのに。
よほどその子の事を好きになったんだろう。
タケはスマホをテーブルに置いて、頬杖を付いて僕の顔を覗きこむ。
「あ、もしかしてこれが本物の恋?なーんて思っちゃったりして。でもその子、俺が遊んでんのとか知ってたみたいで、いきなり言われちゃってさ。先輩とは、絶、対、に!飲んだりしません!って」
「ふふ、よく分かってるね、その子」
「なんかショックでさぁー。で、逆に燃えちゃって。その子の事、ぜってー手に入れたい、とか思ってんの。別に超絶美人でもないんだよ?鼻もペチャンコでビーバーみてーな顔してんのに」
「失礼だな」
「でもさ、景ちゃんだってたまに思わない?世の中には美女なんて数えきれない程いるのに、なんでこの人を好きになったんだろうって。しかも景ちゃんの相手はあの修介だぜ?……あ、ごめん。別に悪く言ったつもりはないけど」
タケと修介の話をすることになるとは思わなかったな。
これじゃあ誰かと過ごす意味がなくなってしまうけど……。
「そうだね……どんなところがって言われても、すぐには出てこないな。ちょっと抜けてて泣き虫なところとか、あんまり僕に本音を言わないところとか、ちょっとだけ直してほしいなっていうのは出てくるけどね」
嫌われたくなくて本音を言わないところを直してほしいなんて、僕にも当てはまるけれど。
なぜ僕は、修介だったのだろう。
そうやって、初めて修介とセックスをした後にも思った。
でも答えは分からなかった。
これから導き出していくのだろうと、修介との未来が楽しみで胸を弾ませたはずなのに、まさかこんな事になるだなんて、思いもよらなかった。
タケは黙り込んだ僕の腕を肘で突いて歯を見せて笑った。
「でも、直してほしいところもひっくるめて全部好きなんでしょー?」
「え?」
「だってー、景ちゃん、直してほしいとか言いながらも、ちょっと嬉しそうな顔してるじゃん」
「……」
そんな顔してた?僕。
「修介とまた会って飲みてぇな。今度誘っといてよ?」
「うん。聞いておくね」
修介の話題はこの後出る事が無かったから少し安堵した。
この気持ちがスッキリ晴れて、早く彼の傍へ行けますように。
神様に祈るような気持ちで、胸の中で呟いた。
修介との事は自分一人で解決すればいいと思って、周りに隠していた僕だったけど、次の日、とうとうバレてしまう事になる。
その相手は、先ほど誘いの連絡をした、詩音だった。
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