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第346話 side詩音
「わぁぁー!凄くいいお部屋ですね!」
「ずっと約束してたのに、招くの遅くなっちゃってごめんね」
「いえ!俺こそ、誘ってもらってたのに、いつもタイミング合わなくてすいません!でも今日来れて本当に良かったです!あー……俺もいつかはこんないい部屋に暮らせるようになりたいなー……」
大きな窓から外の夜景を眺めてはしゃいでいる俺に、藤澤さんは笑ってはいたけど何も言って来なかった。
俺は気付かれないように、チラリと横目で藤澤さんの様子を伺う。
藤澤さんは少ししてから「適当に座ってて」と言ってキッチンに入った。
やっぱり、今日の藤澤さん、ちょっと変かも。
笑ってはいるけど、どこか無理をしているようで。
俺は藤澤さんの表情をものすごく研究したから、心から笑っているかどうかなんて見れば分かる。
口角の上がり方とか、目尻の下がり方とか、瞳の奥の光の加減とか。
お土産のワインを手渡してからソファーに腰を下ろして、ぐるっと部屋を見渡した。
綺麗に整理整頓されていて、すごく片付いている。
逆に綺麗すぎて、なんだか生活感が無かった。
まるで部屋がずっと放置されていて、物を全く動かしていないみたいな……
もしかして、帰ってこれないくらい忙しくしてたのかな。
「あの、藤澤さん。もしかして、ここに帰ってきたのって久々ですか?」
俺の言葉に、藤澤さんは手を止めて少し驚いた様子だったけど、すぐにフッと笑った。
「うん。実は最近、あまりここにはいないんだ。ホテルに泊まったり、友達の家に泊まったりしてて。今日の夕方、久し振りに帰ってきた」
なんでだろう。
こんなにいい部屋なのに、帰ってこない理由なんてあるのかな。
藤澤さんは再度視線を落とし、キッチンで支度を始めた。
それと同時に、藤澤さんのスマホが鳴った。
「あ、桜理だ。ちょっと電話してくるね?」
頷くと、藤澤さんはリビングから出て行った。
何か驚いたような声が聞こえた気がして視線をそちらに向けたけど、全部は聞き取れないからすぐに視線を戻した。
しばらくしてから、藤澤さんがポカンとした様子でリビングに戻って来た。
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