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第359話

景と同じくらいのグレードのマンションに連れて来られた俺は、思ってたよりも驚きはしなかった。 きっと景の部屋を見慣れているからだろう。 タケさんはコーヒーメーカーでコーヒーを淹れてくれて、ローテーブルの上にカップを置いた。 景の部屋みたいに無駄なものは置いていないから、部屋が広々と感じられる。 俺はソファーの前に膝を抱えて小さくなって、さっきタケさんが渡してくれたブランケットを肩から掛けて、コーヒーを一口飲む。 甘かった。 タケさんも斜め向いに座ってからコーヒーを飲んだ。 タケさんとこうやって二人きりになるのは初めてだな、とチラッと顔を盗み見てから、俺は切り出した。 「あの、大丈夫でしたか?さっきの人」 「あぁ、あいつ?いいのいいの。飯食った帰りだったから」 タケさんはカップを置くと、片膝を立ててその上に肘を乗せて俺に尋ねた。 「辛い事でもあった?」 「え……」 「なんだか、泣いてたみたいだったからさー」 羞恥でいっぱいになった。 いろんな感情が混ざって、やっぱり顔に出ていたようだ。 「景ちゃん?」 ハッとして俺は顔を上げると、タケさんは歯を見せてニコッとして、またコーヒーを飲んだ。 タケさんは、景とは長い付き合いだ。 きっとタケさんの方が、俺よりも景のことをちゃんと分かってるのかもしれない。 「俺、景の負担になってるんでしょうか」 そんな事を言ってもタケさんは困るだけなのに、何言ってるんだろう。 「なんだよ、しけた面してよー。朝井さんに、景ちゃんを悪く言ったら俺が許さない宣言した奴と同一人物とは思えねーなー」 俺はたちまち顔が赤くなった。 確かに、そんな事を言った事がある。 あの時の強い気持ちが今欲しいけど、そんなのは全然沸いて来なかった。 「で、何があったのー?景ちゃんと」 優しく訊いてくれたタケさんにまたじんわり涙が滲んで、俺は胸の中のドロドロとした感情を吐き出した。

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