362 / 454

第362話

タケさんにキスをされてしまう……と思った俺は、目をギュッとつぶって、咄嗟に自分の口を手の甲で塞いだ。 タケさんの指先が直に俺の脇腹に触れて、そのままするすると上へと滑っていく。 それはあっという間の出来事で、俺は身体を捩ってなんとか逃げようとしたけれど、それよりも先に胸の突起をキュッと摘まれてしまった。 「ん……ッ!」 バランスを崩した俺は床に倒れて頭を強く打ってしまう。 タケさんは微動だにせず、上から俺を見下した。 押し倒されるような体勢になってしまい、余計に焦った。 タケさんの腕を掴んで引き剥がそうとするけど、抵抗虚しく、逆に唇を塞いでいた俺の手を剥がされてしまった。 タケさんはそのまま片手でゆるゆると胸を弄りながら、俺の唇に再度顔を寄せた。 「あ……!やっ!」 怖くって、顔を背けながらジタバタと足を動かし、全力で抵抗した。 嫌だ。嫌だ! ――景じゃないと、嫌だ! そう思った瞬間、タケさんの力がだんだん抜けていくのが手から伝わってきた。 「なんつー声出してんだよっ」 そして、手で思い切り頭を叩かれた。 「い、痛いッ?!」 「もう、答え出てると思うけど」 「……え?」 タケさんは身体を起こしてニヤリとした後、俺の両手を引いて上半身を起き上がらせた。 「景ちゃんの事、何があっても手放す事なんて出来ないくせにー」 「た、タケさん?」 「勝てないとか相応しくないとか言ってないで、もっと胸張って堂々としてろよ。それとも、景ちゃんには相応しく無いからって、大人しく身を引いてマジで詩音に譲ってあげるつもり?」 「やっ、それはっ嫌です!」 そう言うとタケさんは笑いながら、今度は俺の額を指で思い切り弾いた。 (さっきからめっちゃ痛い.....) 「万が一にでも景ちゃんが詩音を選んだとしたら、俺、景ちゃんの友達辞めるねー。そんな事する訳ねーけど」

ともだちにシェアしよう!