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第362話
タケさんにキスをされてしまう……と思った俺は、目をギュッとつぶって、咄嗟に自分の口を手の甲で塞いだ。
タケさんの指先が直に俺の脇腹に触れて、そのままするすると上へと滑っていく。
それはあっという間の出来事で、俺は身体を捩ってなんとか逃げようとしたけれど、それよりも先に胸の突起をキュッと摘まれてしまった。
「ん……ッ!」
バランスを崩した俺は床に倒れて頭を強く打ってしまう。
タケさんは微動だにせず、上から俺を見下した。
押し倒されるような体勢になってしまい、余計に焦った。
タケさんの腕を掴んで引き剥がそうとするけど、抵抗虚しく、逆に唇を塞いでいた俺の手を剥がされてしまった。
タケさんはそのまま片手でゆるゆると胸を弄りながら、俺の唇に再度顔を寄せた。
「あ……!やっ!」
怖くって、顔を背けながらジタバタと足を動かし、全力で抵抗した。
嫌だ。嫌だ!
――景じゃないと、嫌だ!
そう思った瞬間、タケさんの力がだんだん抜けていくのが手から伝わってきた。
「なんつー声出してんだよっ」
そして、手で思い切り頭を叩かれた。
「い、痛いッ?!」
「もう、答え出てると思うけど」
「……え?」
タケさんは身体を起こしてニヤリとした後、俺の両手を引いて上半身を起き上がらせた。
「景ちゃんの事、何があっても手放す事なんて出来ないくせにー」
「た、タケさん?」
「勝てないとか相応しくないとか言ってないで、もっと胸張って堂々としてろよ。それとも、景ちゃんには相応しく無いからって、大人しく身を引いてマジで詩音に譲ってあげるつもり?」
「やっ、それはっ嫌です!」
そう言うとタケさんは笑いながら、今度は俺の額を指で思い切り弾いた。
(さっきからめっちゃ痛い.....)
「万が一にでも景ちゃんが詩音を選んだとしたら、俺、景ちゃんの友達辞めるねー。そんな事する訳ねーけど」
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