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第365話 side景
「ありがと、詩音。こんな僕に憧れて、追いかけて、僕と出会ってくれて。本当に嬉しいんだ。誰かの生きる糧になる事が出来て。今のままじゃいけない、もっともっと頑張らなくちゃって思えるよ」
僕は詩音の頭を撫でてやる。
そうすると詩音はますます顔を赤くして涙を零しながら言葉を紡いでいった。
「お、おれ……っ」
「うん」
「こんな気持ちになったの、生まれて初めてです。修介さんが、羨ましくて、嫉ましくて、ドロドロした感情が俺の中にあって、なんで、俺じゃないんだろうって悔しくて、さっき修介さんに酷いこと言いました……俺が藤澤さんの隣にいるべきだって」
「……」
「でも、分かってました。さっき藤澤さんが、修介さんの名前を呼んだのを聞いて確信しました。二人の間に、俺の入る隙なんてないって事。俺はどうやったって、修介さん以上にはなれないんだって事」
詩音はまたポロポロと涙を流していた。
これがもし撮影だったら、誰もが息を飲むだろう。
詩音のその姿は、あまりにも美しくて、胸が締め付けられた。
詩音の頭をなでながら、少しだけもらい泣きしてしまった。
「僕を困らせる事ができるのは、修介だけなんだ。頑固者で、臆病者で、自分勝手な人なんだけど、どうしても好きなんだ。詩音、その事分かってたのによく気持ち伝えてくれたね。どうもありがとう」
詩音はフルフルと横に首を振った。
「こっちにおいで」
僕は片腕の中に詩音の体を埋めて、背中をさすってあげた。
詩音は僕の肩に顔を伏せて、声を堪えて泣いていた。
「詩音を振るだなんて、僕はなんて図々しいんだろうね」
「俺、初めてです。役以外で、誰かに告白したのも、振られたのも」
「えっそうなの?」
「はい」
「……ごめん」
「こんなに、胸が痛くなるなんて、知りませんでした……。藤澤さん、いろんな事教えてくれて、ありがとうございます」
「ふっ。何言ってんの」
やっぱり修介みたいだった。
髪がサラサラで、柔らかくて。
途端に彼に会いたくなった。
彼に会って、今すぐ抱きしめてあげたい。そう思った。
「ありがと、詩音」
詩音の涙が収まるのを、僕は目を閉じながらゆっくり待った。
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