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第371話

「あっ……景、久し振り」 かろうじてそう言うと、景ははっきりとした口調で、いつもの低音を響かせた。 「修介はさ」 「……何?」 「これからも僕と一緒にいてくれるんだよね?」 「え?」 唐突な質問だったから、顔を上げて景と視線を合わせた。 何かが吹っ切れたのか、あの日の寂しげな表情ではなく、強気で、一点も曇りがない目で微笑んでいる。 「やっぱり大人しく、僕に守られててよ」 「はは、なんやそれ」 「修介の一番は、僕でしょう?」 「……当たり前やんか」 「直接謝りたかったんだ。疑ったり、嫉妬したりして、まるで修介の事を信用してないみたいだったね。もう、そういうのやめるよ。本当にごめん」 景はそう言って、また熱いキスを落としてから身体を離した。 「ううん。俺もごめん。景が嫌だなと思う事はもう、せーへんようにする……」 「莉奈ちゃん。さっき会ってきたよ」 ――会ってきた? その言葉に目を丸くする。 「は?莉奈に?」 「修介に連絡しないつもりなら、私にくださいって言われた」 「えっ!莉奈、そんな事言うたんか?!」 「やだって言ったよ。誰にもあげるつもりは無いからねって」 顔が火照っていくのが分かった。 そんな事を言っただなんて、恥ずかしくてこの先、莉奈と顔を合わせられないではないか。 でも、景がはっきりそうやって言ってくれただなんて、やっぱり嬉しかった。 「不安にならなくていいのにって僕が修介にいつも言ってたくせに、当の本人が不安で信じられなくなっちゃってさ......バカだったよ。これからはもう、ウジウジ悩んだりしない。ずっと一緒にいてくれる?5年後も10年後も、僕の隣に」 10年後もって……馬鹿じゃないの? それって結構長いと思うんだけど。壮大だな。 それって軽くプロポーズしてるみたいになってるけど。 「景ってホンマ……」 鼻の奥がツンとして、言葉に詰まる。 景から視線を逸らした。 思えばこの人は、はじめて会った時からいろいろと変わっていた。 いきなり頭を撫でてきたり、電話してきたり、この家に突然押しかけて来たり。 景はちゃんと、詩音くんじゃなく、他の誰でもなく、こんな俺の事を選んでくれた。 愛されてるって事が嬉しくて、俺は涙の雫を弾けさせて笑った。 「アホやなぁ……」 「でしょ。自分でもびっくりするくらい、君に夢中なんだ」 「……知ってる」 今度は俺の方が景の服を掴んで、背伸びをして景にキスのおねだりをした。 景はそれにちゃんと応えてくれる。 何度も角度を変えてキスをして、お互い熱い息を吐き出すと、手を繋いだままソファーベッドに移動した。

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