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第375話

* * * 「景……」 「何?」 「激しすぎ」 「ごめん」 「いま何時?」 「分かんない」 俺たちは片手を繋ぎながら、ベッドの上で寝転がり天井を見つめていた。 随分と長い時間ベッドの上にいるから、今が夜中なのか、朝方なのか分からない。 薄暗い風景の中、俺たちはしばらく動かなかった。 すごく、満たされた。 あんなに不安になってたのが嘘のように、カチカチに凍っていた心が、景の暖かさだけで一気に溶けて外へと流れ出た感じだ。 「ありがと……」 「何が?」 景はおもむろに聞いてくる。 頭の中で考えてるだけだと思ってたけど、どうやら感謝の気持ちを口に出していたようだ。 ちょっと可笑しくなって、クスッと笑ってかぶりを振った。 「ううん、なんも」 「詩音がさ、今度、修介に会ってちゃんと謝りたいって言ってたよ」 ハッとして景の方を向くと、景も顔を横に向けて、俺の頭を撫でてくれた。 「詩音くんが?」 「僕が弱ってる姿見て、不安でつい修介にカッとなって言っちゃったって。恥ずかしい事したって、反省してた。今度、タケや桜理達も交えてみんなで飲む機会作るから、会ってあげてくれるかな?」 「……別に、謝らんでも、もう気にしとらんから大丈夫やのに」 でも良かった。 多分、二度と詩音くんには会えないだろうなとは思っていたから。 「伝わった?僕の気持ち」 「うん」 「つい気持ちが高ぶって無理させちゃったけど。僕がこうやってしてあげたいって思うのは、君だけだよ」 「……うん。ありがと」 俺たちはまたキスをした。何度も何度も。 嬉しくて、やっぱり堪えきれずに涙が溢れた。 本当に泣き虫だねって、なじられたけど、やっぱりこんな景が大好きだ。 俺は、ずーーっと一緒にいると心に誓う。 この変態な人のとなりに。 ベッドから降りて、冷蔵庫のドアを開けた途端、俺は「あっ」と声を出した。 「どうしたの?」 「水、無かったんやった」 いつもなら一本は必ず入れてあるけど、昨日いろいろとあったから、そこまで頭が回らなかったのだ。 「じゃあ、一緒に買いに行く?」 「え、ええの?景、寝た方がええんやないの?」 「ううん。今日はもう寝ないで仕事行くよ。そのまま散歩でもしようか」 景はそう誘ってくれた。 俺は悪いな、と思いながらも、景の好意に甘えて頷いてから、二人で軽くシャワーを浴びて、それぞれ床に散らばっていた洋服を身に着けてアパートを出た。 スマホで時間を確認すると、朝の四時だった。 こんな時間に外に出たのは久し振りだ。

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