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第386話
「えぇ~?嘘だぁー!そんなの覚えてないよーん」
「えっ!じゃあ景に何も言わずに修介の事連れて来たって事かよ!お前も俺とまとめてあいつに殺されんぞ!」
「え、何?桜理は何したのー?」
「修介、景から連絡は?」
桜理さんはタケさんの質問は無視して、俺の方を見る。
俺はポケットに入っていたスマホを取り出し、恐怖を覚えた。
「めっちゃ、着信来てます……」
メッセージも三件入っている。
震える手で恐る恐る開くと、連絡してとか心配してるとかで、文面からはそんなに怒りは感じられなくて少しほっとした。
桜理さんは諭すように俺に話しかけた。
「とりあえず、早く景のところ行けよ。そんでこうなったのは全部タケのせいにしとけ。あいつ、タケにはちょっと甘いところあるから、ちゃんと説明すればきっと許してくれる」
「えー、何で俺のせいなの?」
「おめーが連れて来たんだろっ!修、介、をっ!!」
「あー、おっきい声出さないでよ~、頭ガンガンするー」
タケさんは迷惑そうに両手で耳を抑えた。
みんなの会話を聞いていると、記憶の断片がパチパチとパズルのように組み合わさっていく。
そうだ。なんでここにいるのかって、トイレでたまたま鉢合わせしたタケさんに誘われたから、そのままタクシーに乗り込んだんだった。
その前に、寝ている俺を景が起こしてくれたはずだ。
トイレに行く俺に、確か外で煙草吸って待ってるからって言ってくれたような……。
俺、なんて事をしてしまったんだ。
とにかく、早く景のところへ行かなくちゃ。
そう思って髪の毛や服を手で直していると、桜理さんに横から耳元で小さく囁かれた。
「ぜってー、景に言うなよな?バレたらどうなるか分かってんだろ?俺とお前だけの、秘密な?」
「……すいません」
たとえ間違いだったとしても、桜理さんとキスしたなんてバレたら、どうなるかなんて怖くて想像もしたくない。
支度をして、詩音くんに駅までの道のりを聞いてから家を出た。
歩きながらリダイヤルボタンを押して、耳にスマホをあてる。
コール音が鳴ってすぐに途切れたから、景が電話に出てくれたのが分かった。
『修介』
それはそれは、低い声。
名前を呼ばれただけなのに、景の静かな怒りが感じられたような気がして、身体が強張った。
「あっ、あ、あの景!俺、その、ごめん!」
何て言い訳すればいいのか分からず、しどろもどろになってしまう。
「俺っ、酔ってて、あんまり覚えてなくて、景、待っててくれたんに、ほんまに、ごめっ」
『今どこにいるの?』
景は遮るように言う。
「えっ?」
『連絡ないから心配してたんだよ?話は後で聞くから。今から僕の家来れる?』
「あ、うん。今から行く。待っとーて?」
『うん。待ってるからね』
勝手に置いてったのに俺を責める事もしない景の優しさに胸をぎゅっとさせながら、駆け足で駅の方へと向かった。
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