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第387話

「ふーん。で、朝まで詩音の家で寝てたと」 「はい」 俺は景のマンションに来て早々、そうしろと言われた訳ではないけれど、リビングの床に自ら正座して俯きながら言い訳をしている。 景はというと、ソファーに頬杖をつきながら俺を見下ろしていた。 「ったく、みんなして悪酔いしすぎなんだよ。修介も修介だよ。僕の事散々誘っておきながら、タケなんかにフラフラついてっちゃってさ」 「えっ……?! 俺、誘ってたん?」 「それも覚えてないの?」 「……」 正直言って全く覚えていない。 景は呆れたように溜息を吐いた。 「でも、詩音の家にいたって分かったら安心したよ。僕一人で色々と考えちゃって、本当に心配だったんだから」 「えっ、色々って?」 「例えばー……キャバクラに連れてかれて、女の子とイチャイチャしてたらどうしようとか?」 「えっ!」 「酔った勢いで、乱行パーティでもしちゃってたらどうしようとか?」 「そっ、そんな事する訳ないやんかっ!」 俺は必死に両手をブンブン振って、目を見開いて否定する。 「僕、寂しかったな。修介の事すぐにでも可愛がりたかったのに、いなくなったって分かったあの時の気持ち……思い出したくもない……」 明後日の方向を薄目で見ながら言われた。 まだ怒鳴られた方がマシなのに、景の気持ちを思うだけで申し訳なくて涙目になってしまう。 「あ、本当に……ごめんなさい……」 叱られた子供のようにしゅんとして顔が上げられないでいると、景は組んでいた足を正してソファーから降り、座って俺の膝の上に手を重ねてきて顔を傾けてニコリとした。 「嘘だよ。ごめんね、ちょっと虐めたくなっちゃって。もういいよ。一人にさせちゃった僕も悪いんだし。今回はお互い様って事で」 「えっ……許してくれるん?」 「許すも何も、元話と言えばタケが悪いんだから。あいつにまた今度お説教しなくちゃね」 「景……!」 やっぱり、景は天使だ。 エッチモードの景は俺に意地悪な事ばっかりするけど、普段喧嘩するといつも先に謝ってくるし、優しい言葉を俺にくれる。 景みたいな人が俺の恋人で、本当に良かった。 「その変わり、ずっと会えなかった分、沢山可愛がるからね……覚悟して」 そう言うと景は顔をゆっくりと近づけてくる。 景の唇を間近で見た途端、朝方の桜理さんとのキスを思い出してしまった。 俺は無意識のうちに身体を少し後ろへ倒し、顔を伏せてしまう。 その事に気付いたのは、俺よりも景の方が先だった。 景は少し触れるだけのキスをした後、すぐに顔を上げた。 「何?なんで嫌がるの?」 「えっ?」 顔を覗き込まれる。 景の驚きの表情に何もかも見透かれそうで、手に汗を握り、かぶりを振った。 「嫌がってなんかないで?」 「嘘。今、ちょっと逃げたでしょ身体?」 「へっ?逃げてなんか」 「じゃあ、ちゃんと僕の目を見てよ」 そう言われた俺は、慌てて逸らしていた視線の先を景に合わせた。 途端に身体が熱くなり、動けなくなってしまう。 しばらく景は俺の心の中を覗くように見つめると、右手で俺の後頭部を包み込み、口付けをした。 今度はいつものように出来た。 舌を入れられ、俺もそれに反応する。 水っぽい音が脳内を刺激されて、ふわふわとした気分になってくる。 ずっとその気分を味わっていたかったのに、途中で景の方から唇を離されてしまった。 そして景は呟いた。 「なーんか怪しいなぁ……」

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