391 / 454

第391話

『もしもし』 桜理さんが電話に出た、ようだけど…… 俺は見た。 景が演技モードにスイッチが入るところを。 景はまるでドラマで見るような、別れのシーンみたいな切ない顔になった。 俺の頬にそっと手を添えて、瞳を潤ませながら見つめてくる。 「桜理?僕、ビックリしたよ。桜理と修介があんな事になっちゃったなんてさ……」 えーーっ!何、その言い方! 俺はみるみるうちに耳まで熱くなる。 『えっ、お前聞いたの?修介から?』 「修介は全部、正直に話してくれたよ?もう、怒ってないからさ。お前も僕に何か言う事あるでしょう?」 そう言い終えると景は切ない表情から一変、いたづらっ子のような顔になり、ペロッと舌を出した。 景は、桜理さんの方から直接言わせようとしてるんだ。 景の方が一枚も二枚も上手だった。 バレるのも時間の問題だ。 『本当に怒ってねーの?ごめん、悪かったよ。でもお互い間違っただけなんだし、許してよ。大丈夫だよ、修介の事取ろうだなんて思ってねぇからさっ!』 「間違っただけって、何したんだっけ?ちゃんと言ってよ」 景の視線が痛い。 あぁ、どうしよう。 ギュっと胸が痛くなる。 逃げないでと言われたけど、怖くて一刻も早く身体を振り払って逃げたかった。 『だから悪かったって。俺も気付かないでキスしてたんだから。でも、ほんのちょっとだけだから!ごめ』 先程と同じように景は途中で電話を切り、またもやスマホを乱暴にソファーに投げつけると、俺の顔の横に今度はドンと肘をついて、より一層距離を縮めた。 「何?キスしたの?桜理と」 「あ、あ、景」 すぐ目の前の景に冷たく見下されて、ますます目に涙が溜まってくる。 「バレないと思った?僕に、ずっと隠し通せると思ったの?」 「ご、ごめ」 「間違えたってどういう事?正直に全部話さないと、修介にもうニ度と触れないよ?」 「えっ?」 「だってそうでしょう? ずっと秘密にしておくつもりだったなんて、僕の事バカにしてるの?これからもそんな事されるようだったら、修介の事もう嫌いになるからね?」 血の気が引いて、胸の中にポッカリと穴が空いた。 嫌いになる、だなんて初めて言われた。 景は顔色一つ変えず俺を見据えている。 ここでバカな俺はようやく、嫌われるような事をしてしまったんだと気付いて、首をブンブンと横に振った。 「あっ……やだ!嫌いになんないでっ!」 景に嫌われて、もう触れられなくなるなんて事、想像しただけで俺にはとても耐えられない。 涙が止まらなくて、熱い顔を両手で覆った。 景はそんな俺を困ったように見つめながら、体を離した。

ともだちにシェアしよう!