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第391話
『もしもし』
桜理さんが電話に出た、ようだけど……
俺は見た。
景が演技モードにスイッチが入るところを。
景はまるでドラマで見るような、別れのシーンみたいな切ない顔になった。
俺の頬にそっと手を添えて、瞳を潤ませながら見つめてくる。
「桜理?僕、ビックリしたよ。桜理と修介があんな事になっちゃったなんてさ……」
えーーっ!何、その言い方!
俺はみるみるうちに耳まで熱くなる。
『えっ、お前聞いたの?修介から?』
「修介は全部、正直に話してくれたよ?もう、怒ってないからさ。お前も僕に何か言う事あるでしょう?」
そう言い終えると景は切ない表情から一変、いたづらっ子のような顔になり、ペロッと舌を出した。
景は、桜理さんの方から直接言わせようとしてるんだ。
景の方が一枚も二枚も上手だった。
バレるのも時間の問題だ。
『本当に怒ってねーの?ごめん、悪かったよ。でもお互い間違っただけなんだし、許してよ。大丈夫だよ、修介の事取ろうだなんて思ってねぇからさっ!』
「間違っただけって、何したんだっけ?ちゃんと言ってよ」
景の視線が痛い。
あぁ、どうしよう。
ギュっと胸が痛くなる。
逃げないでと言われたけど、怖くて一刻も早く身体を振り払って逃げたかった。
『だから悪かったって。俺も気付かないでキスしてたんだから。でも、ほんのちょっとだけだから!ごめ』
先程と同じように景は途中で電話を切り、またもやスマホを乱暴にソファーに投げつけると、俺の顔の横に今度はドンと肘をついて、より一層距離を縮めた。
「何?キスしたの?桜理と」
「あ、あ、景」
すぐ目の前の景に冷たく見下されて、ますます目に涙が溜まってくる。
「バレないと思った?僕に、ずっと隠し通せると思ったの?」
「ご、ごめ」
「間違えたってどういう事?正直に全部話さないと、修介にもうニ度と触れないよ?」
「えっ?」
「だってそうでしょう? ずっと秘密にしておくつもりだったなんて、僕の事バカにしてるの?これからもそんな事されるようだったら、修介の事もう嫌いになるからね?」
血の気が引いて、胸の中にポッカリと穴が空いた。
嫌いになる、だなんて初めて言われた。
景は顔色一つ変えず俺を見据えている。
ここでバカな俺はようやく、嫌われるような事をしてしまったんだと気付いて、首をブンブンと横に振った。
「あっ……やだ!嫌いになんないでっ!」
景に嫌われて、もう触れられなくなるなんて事、想像しただけで俺にはとても耐えられない。
涙が止まらなくて、熱い顔を両手で覆った。
景はそんな俺を困ったように見つめながら、体を離した。
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