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第392話

「はぁ。ごめん、怖がらせて。とりあえず落ち着いて」 「ッ……」 景は座ったまま俺の背中に手を回して抱きしめてくれた。 子供をあやすように、手で背中をトントンと叩いてくれる。 景の膝の上に座って肩口に顎を乗せると、ほろりと涙が落ちた。 「ちゃんと言って。なんでそういう事になったの?あいつと」 さっきの冷たい声ではなく、穏やかな、低くて優しい声が聴こえてきたから安堵した。 「と、隣で寝てて、景と間違えて、キスした」 「寝ぼけてたの?」 「景の夢見てて、嬉しくて、夢の中で景とキスしてると思ったんやけど……ごめんなさい」 「……え?それだけ?」 「それだけって?」 「ふふっ」 今、笑った? 顔を上げて景の方を見ると、呆れたような顔で笑っていた。 「何を隠してたかと思えば、そんな事?」 「えっ?」 「もう……初めから言ってよ。正直に」 「だ、だって、朝井さんにキスされた時、もう触れさせるなって言われたし、タケさんの事もめっちゃ怒ってたし、桜理さんとキスしたなんて知られたら、景の事傷つけると思って」 俺がそこまで言うと、景は一息吐いて、俺の頬に流れた涙の跡を指先で拭った。 「隠されてる方がよっぽど傷つくに決まってるでしょう。それに、わざとじゃないんだから、初めから素直に謝れば良かったんだよ」 「ごめん。怖かったん。桜理さんにも迷惑かけたくないし...…」 「どうせ、僕が桜理の事殴るとでも思ってたんでしょ?」 「なっ、殴らんでっ」 「殴らないよ。朝井さんの時は頭に血が上って。相手が桜理だったら百倍マシだよ。あいつの事よく知ってるし、修介の事変な目で見てるなんて事あり得ないって分かってるし。僕、必死に隠す修介見て、てっきり桜理とセックスでもしちゃったのかと思ったよ」 景の事、どっちみち傷つけてしまった。 俺はいつまでも馬鹿だ。嘘吐いてまで、何を守りたかったんだろう。 「もう、嘘吐くのやめてよね?僕、信用されてないのかと思っちゃうから」 「ごめん、ホンマにごめん」 「他に隠し事はもうない?」 「ないっ、ない!ホンマに」 「本当だね?桜理にキスだけじゃなくて、ここを触られたりしてないね?」 言いながら足の間を服の上からぐにぐにと押されたから、勝手に身体が熱くなる。 「なっ、ないで!そんなの、される訳ないやんか!」 「ならいいんだけどさ」 景はクスクスと笑うと、俺の唇を再度指でなぞり始めた。 「……じゃあ、ほら。舌出しなさい」 「え?」 景、許してくれたの? 俺、子供みたいな事をしてしまったのに。 「消毒、してくれるん?」 「もう最後にしてよね。こんな事」 ありがとう、景。 俺は頷くと目を閉じて、舌を出した。

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