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第412話
とうとう、言ってしまった。
頭が真っ白になるとはこの事だ。
羞恥と驚きのあまり手を離そうと試みるけど、ガッチリ掴まれていて逃げられなかった。
景は全く動揺もせず堂々と言うから、なんだか悪い事をしているだなんて思わなくなってくる。
悪い事?いや、悪い事なんかじゃない。
俺と景は、ずっと一緒にいるって決めたんだ。
たとえそれが、誰かを悲しませる運命だとしても、俺たちは離れられない。離れたくない。
離そうとしていた景の手を、逆に痛いくらいにギュッと握った。
「あのっ、黙っていてすみません!景と、付き合ってます!」
震える声でそう言いながら、目の端に涙が溜まった。
受け入れてもらえないと思うけど、自分を偽りたくない。
景のお父さん、お母さん、もし悲しませちゃうようだったら本当にごめんなさい。
でも、景を心の底から愛しています。
そうやって心の中で呟くと、目を丸くしていたお父様が声をあげた。
「えぇーーっ!! うっそー、そうだったのぉー!?」
わざとらしすぎる言い方に、景と二人でキョトンとしてしまい、滲んだ涙も引っ込んだ。
お父様は両手で頭を抱えながら「信じられなーい」とか「ビックリー」とか漏らしながら体を揺らしている。
訳が分からず、取り敢えずその様子を眺めていたら、お父様は急にピタリとその動きをやめて、真面目な表情に戻ってテーブルに身を乗り出した。
「こんな感じでいいのかな?ちょっとやり過ぎ?見栄え悪かったら、さっきの台詞からもう一回やるけど」
キョロキョロと辺りを見渡すお父様。
景はいつの間にか俺の手を離して目を細め、お父様に冷たい視線を送っていた。
「父さん。悪いけどこれ、ドッキリじゃないから」
「えっ?だってテレビでよくやってるでしょ。はたして親の反応は?ってやつ」
「よくやってるけど、これはそれじゃないよ」
「え、じゃあ何?本当なの? 本当に君達は付き合って……」
「うん。本当だよ」
「……」
お父様は口をあんぐりと開けたまま、何も発さなくなってしまった。
この空間に響く音は、モコの息遣いと足音だけ。
さっきから黙り込んだままのお母様に恐る恐る顔を向けると、困っているような、怒っているような顔をしていた。
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