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第413話
「景。いつから修介くんと付き合っているの?」
「四月から」
「本気なの?」
「何馬鹿な事言ってんの。当たり前でしょう」
それを機に、景とお母様の会話がどんどんギスギスしていくのが分かった。
景とお母様の顔は似ている。
その二人が一ミリも視線を外さぬまま、まるでバチバチと火花が散っているかのように睨み合っていた。
「どうして今まで黙っていたの?」
お母様は低い声を出した。
普通だったら威圧感に耐えられずに視線を外してしまうところだけど、冷やりとした空気の中、景は怖気付かずにジッと見つめながら同じく低い声で返した。
「本当はもっと早くに伝えたかったけど、タイミングが合わなくて。大事な事だし直接伝えたかったんだ。僕も仕事の都合があったし、そっちだって忙しくしてたから」
「本当にそう?そんなの建前で、世間体が気になってたからじゃないの?」
「え?」
「本当は悪い事をしているのかもって、自信が無かったんじゃないの?だから言い出せなかったんじゃないのかしら」
「呆れた」
景は目の力を弱めて、その言葉の通り呆れたように深く溜息を吐いた。
「そんな事思う筈無いでしょう。僕がどれだけ修介を好きなのか、母さんは知らないんだよ」
「本当に好きなの?修介くんの事。世間様はきっとすんなりなんて受け入れてくれないわよ。それでも一緒にいる覚悟は景にはあるの?」
それを聞いた景は唇を噛んで、心外といった表情をした。
「あるよ。世の中の人全員に受け入れてもらおうだなんて思ってないよ。例え母さん達までもが受け入れられないんだって言うなら、僕は何度でも貴方達を説得する。受け入れてくれるまで。僕は、僕たちは、自分に正直に生きていきたいんだ。僕はちゃんと、修介を愛してる」
景は毅然とした声を出してから、もう一度机の下で俺の手をギュッと握った。
お母様とのやり取りを複雑な気持ちで見ていた俺は、最後の景の言葉で我に帰った。
僕たちはって、ちゃんと俺の気持ちも伝えてくれたんだ。
景、ありがとう。
やっぱり目の端に涙がじんわり滲んでしまう。
景の必死な横顔を見て、俺も何か伝えなくちゃと顔を上げた。
「あ、あの。俺は景と出会って、景にいろんな事を教えてもらいました。嘘をつかずに、真っ直ぐに生きていく事。景はいつでも俺の事を考えてくれました。俺も景の事、心の底から本当に……愛して、いますっ。だからこれからも一緒にいさせてほしいんです」
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