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第425話
食べ終えてから一時間後、景は「そろそろ帰るね」と言って立ち上がり、帰り支度を始めた。
俺もコートを持って支度をしていると、お母様に呼ばれた。
「今日はありがとう。これお土産ね」
自分でも知っている有名なチョコレートのロゴが入った箱には、ピンク色のリボンが掛けられていた。
「彼女だと思って用意してたから、ちょっと女の子っぽいんだけどね、許して」
「い、いえ、わざわざありがとうございます」
「たまには景とここに帰ってきなさい。私たちはいつでも待っているから」
「……あ、はい」
「景と仲良くね」
帰ってきなさい、という言葉にジーンと目の奥が熱くなった。
また来てもいいんだ。
これからも景と一緒にいてもいいんだ。
泣きそうになるのを必死で堪えながら頷いて、頭を下げてから玄関に向かった。
「ここでいいよ。どうもありがとう」
玄関まで見送りに来てくれた両親に、景は言った。
「本当にありがとうございました。ご馳走様でした」
もう一度お辞儀をすると、お父様は手を振った。
「またおいでね~。今度はもっとゆっくり出来るといいねぇ」
「うん、また来るよ、修介連れて」
「帰りの運転、気を付けるのよ」
お母様も手を振ってくれたのでもう一度お辞儀をし、玄関を出て扉を閉めた。
車のエンジンをかけて荷物を積み込み、助手席に乗り込む。
中は氷のようにひんやりとしていて冷たかったけど、気持ちは温かさで満たされていた。
エアコンが効いてくるまでの間、煙草を吸っていいかと聞かれたから頷いた。
「楽しかった?今日」
「うん、来て良かった。話せて良かった」
「昼間ここに着いた時とは態度がえらく違うね」
「そやな。正直逃げ出したかったし」
「父さんと母さん、分かってくれて良かったね」
「うん」
車内がどんどん温かくなっていく。
なんとなくお互い無言で、俺はジッと景の家を眺めていた。
大きな窓があって、カーテンが閉められている。
昼間はあそこから日光が気持ちよく入り込んでくるんだろう。
この家族のように柔らかく、陽だまりのように優しい陽の光が。
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