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第443話
母も困ったように笑いながら席を立って、父の後を追った。
これは予想していなかった。
まさか、反対されるだなんて。
助けを求めようと景を見る。
景も父の後ろ姿をじっと見ながら、唇を結んで何かを考えているようだった。
もう一度、父の方を向く。
その時、いつかの記憶と重なった。
前にもこんなシーンに出会した事がある。
あぁそうだ。あれは大学の進路調査票を父に見せた時。
さっきみたいに「ダメだ」と一喝されたんだ。
いつも俺に対して無関心なのに、気に入らない事があれば「ダメだ」の一点張り。
その理不尽さに、ムカムカとしてきた。
何がなんでも首を縦に振らせたい。
半ばヤケになって俺も立ち上がり、父に向かってもう一度言った。
「俺が一緒に住みたいってお願いしたんよ。お金やってちゃんとするし、景の仕事の邪魔もせんし、迷惑もかけへんよ」
「そういう問題じゃ無い」
「じゃあ、どういう問題なん?」
「……とにかくダメだ」
「はぁ?なんやねんそれっ」
言ってる事の意味が分からない。
ムカムカがピークに達した俺は、やっぱり半ばキレ気味に父に言った。
「ならええよ。オトンだけはずっと一人で反対しとって。わざわざ受け入れてもらわんでも勝手に住み始めるからなっ」
「修介、それは良くないよ」
ハッとして振り返れば、景が立ち上がって俺を真っ直ぐ見つめていた。
「ちゃんと、お父さんの意見も聞かないと。そうやって攻撃しちゃダメだよ」
「……なんやねん」
景を助けたつもりだったのにそんな事を言われるだなんて恥ずかしくなって、顔が熱くなった。
まさか責められるだなんて。
いたたまれなくなって、俺は堪らずそこから逃げ出し、二階へ上がった。
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