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第54話
彼と一緒に自分たちの教室に向かっていると。
「寺島って、剣道強いんだな」
彼が、何の気なしに言ったその言葉に、俺は思わず、
「え?」
と言って足を止めた。
突然足を止めた俺に、一歩先を行った彼も、足を止め、不思議そうな顔で振り返る。
「雅人から聞いたよ。インターハイとかで活躍してるって」
小さな笑顔を俺に向ける。
「俺、全然知らなくて……」
彼は、絶句する俺に気づくことなく、そのまま喋り続ける。
そう、全校集会で見た彼の視線に、俺は入っていなかったのだ。
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