61 / 140
第61話
「雅実、何読んでんの?」
俺はペンを置いて、彼の手元を見る。
「万葉集だけど……」
やり直しが終わったにもかかわらず、片付けもせず座ったままの俺に、彼は俺と机を交互に見る。
彼が言わんとすることが分かった俺は、
「雅人が来るまで俺も残るよ?」
頬づえをついてにっこりとした。
「え、ぶ、部活は?」
「大丈夫、大丈夫。1時間ぐらい遅れるって伝えてるから」
だから、やり直しを20分で終わらせた。
折角彼と二人きりの時間を過ごせるのだ。
同じ時間を過ごすなら、彼の表情が見たいし、彼の声を聞きたい。
そして何より…
彼の瞳に写っていたいから。
ともだちにシェアしよう!