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第61話

「雅実、何読んでんの?」 俺はペンを置いて、彼の手元を見る。 「万葉集だけど……」 やり直しが終わったにもかかわらず、片付けもせず座ったままの俺に、彼は俺と机を交互に見る。 彼が言わんとすることが分かった俺は、 「雅人が来るまで俺も残るよ?」 頬づえをついてにっこりとした。 「え、ぶ、部活は?」 「大丈夫、大丈夫。1時間ぐらい遅れるって伝えてるから」 だから、やり直しを20分で終わらせた。 折角彼と二人きりの時間を過ごせるのだ。 同じ時間を過ごすなら、彼の表情が見たいし、彼の声を聞きたい。 そして何より… 彼の瞳に写っていたいから。

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