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第72話

「……ハーッ」 こっそりとスマホを確認して、ため息をつく。 「どうした、ため息なんかついて?」 「何々、個人戦だから、キンチョーしてんの?」 やいのやいの言ってくる部員を無視して、防具を付ける。 朝からずっと、彼からの〇インを待っていたが、遂に通知は鳴らなかった。 昨夜の塩ライ〇から、たぶん今日もラ〇ンはないだろうなぁとは思っていたが、ここまで塩だと、本当に見に来てくれるのかも心配になってきた。 あんなに目立つ彼だから、来れば一発で分かる。 会場に入って直ぐに、二階席を見回したが、彼はまだ来ていないようだった。 流石に試合に集中しなければと、目を閉じて深呼吸する。 俺はこの会場の中で、圧倒的に強い。 勝つ気しかしない。 俺の優勝は決まっている。 ただ、同じ優勝でも、綺麗に勝たなければ意味がない。 集中力を欠けば、綺麗に勝つことはできない。 この時ばかりは、(おご)りも邪念も不安も……全てを無しにする。 ゆっくりと目を開て、再度深呼吸する。 そして、俺は試合に挑む。

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