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第76話
せわしなく動く、形のいい彼の唇。
その動きから発せられる、心地良い彼の声色。
そして、その言葉のすべてが、俺に対する賛辞。
彼の声をずっと聞いていたいような、彼の唇を塞いでその声を味わいような……。
何より、彼の瞳に自分が写っている。
いや、自分しか写っていない。
フワフワと心ここにあらずにさせるのに、とろりと心を溶かす彼の瞳。
このままずっと俺だけを見てて欲しい。
が、そう思っていても、世の中そういう訳にはいかない。
「寺島はこの後どうすんの?」
雅人のひと言で、現実に引き戻される。
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