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第84話
俺の人差し指を見てるからか、寄り目になって眉をひそめている彼。
俺は思わず、
「プッ!」
と笑ってしまった。
その笑いに、彼は目線を俺に合わせたものの、益々眉をひそめた。
はたから見れば凄んでいるように見えるが、俺にとっては愛おしい顔。
それは、彼が俺に見せる新しい顔だから。
「まさみー、笑かす顔すんなよー!」
「そんな顔、していない……」
手を下ろし廊下を歩き始めると、彼も俺の隣に並んで歩きだした。
チラリと横を見ると、西日が綺麗な顔を明るく照らす。
俺が笑ったことに、まだ怒っている彼。
ついさっきまで困った顔だったのに。
自分の顔が緩むのが分かる。
俺が彼の表情をころころ変えさせているのかと思うと、なんだか嬉しい。
不意に彼が俺を見る。
「な、何、ニヤニヤしてんだよ」
彼は怪訝そうに俺を見る。
「別に」
そうは言ったものの、いまだニヤニヤしている俺に、彼は納得いってない表情をする。
「俺は、ただ、こうやって雅実と一緒に帰ったりしたいだけ」
俺は、目線を前に向けた。
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