88 / 140
第88話
「て、寺島、て、て、て、手!」
「シッ!今、授業中」
右手で彼の手を引きながら、左手の人差し指を口元に当てる。
彼も自分の声が大きくなっていたと思ったのか、慌てて口を閉じた。
そして諦めた彼は、俺に手を握られたまま足早に廊下を歩く。
今は5限目。
俺たちのクラスは体育。
今日の授業内容はバスケ。
期末前の息抜きで、皆適当にやっていた。
が、それが悪かった。
一人のクラスメイトがふざけて投げたボールが、真面目にシュート練習していた彼の右手に勢いよく当たったのだ。
そして現在。
保健委員の俺が、彼を保健室に連れて行っている。
黙って俺に連れられている彼を見ると、自分の右手を見て少し顔を歪めていた。
そんな彼とは対照的に、俺は自分の顔が緩むのを必死で我慢していた。
ともだちにシェアしよう!