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第88話

「て、寺島、て、て、て、手!」 「シッ!今、授業中」 右手で彼の手を引きながら、左手の人差し指を口元に当てる。 彼も自分の声が大きくなっていたと思ったのか、慌てて口を閉じた。 そして諦めた彼は、俺に手を握られたまま足早に廊下を歩く。 今は5限目。 俺たちのクラスは体育。 今日の授業内容はバスケ。 期末前の息抜きで、皆適当にやっていた。 が、それが悪かった。 一人のクラスメイトがふざけて投げたボールが、真面目にシュート練習していた彼の右手に勢いよく当たったのだ。 そして現在。 保健委員の俺が、彼を保健室に連れて行っている。 黙って俺に連れられている彼を見ると、自分の右手を見て少し顔を歪めていた。 そんな彼とは対照的に、俺は自分の顔が緩むのを必死で我慢していた。

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