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第89話

――コン、コン、コン―― ――ガラガラガラ……―― 軽くノックしてゆっくりと保健室の扉を開け中に入る。 「失礼します」 「…失礼、します」 扉には『養護教諭不在』のプレートが出されていたが、保健室利用者がいるかもしれないので、小声ではあるが一応挨拶をした。 ベットの方を見るとカーテンが引かれていた。 やはり利用者がいたようだ。 俺がベットの方に気を取られていると、彼は中央に置かれたテーブルに近づこうとした。 必然的に俺の右手から彼の左手が離れそうになる。 (すんで)のところで、俺は彼の手を再び握った。 軽く引っ張られた形となった彼が、俺の方を見る。 「寺島、だいじょ…」 「ダメだ」 俺は彼の左手を握ったまま、彼がしようとしたようにテーブルに向かった。

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