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第90話
「て、寺島、大丈夫だから」
迷惑をかけたくないのか、まだ俺を帰そうとする彼。
「大丈夫じゃないだろ、雅美」
窘 めるように言って、テーブルの上の利用者名簿を取る。
名残惜しいが、彼の左手を放す。
「て、寺島。俺、じ、自分で出来るから……」
「雅実、右利きだろ?俺が書くから。あ、処置もするから、ちょっと書き終わるまで待ってて!」
流石に今痛めた右手では書けないと思ったのか、彼は渋々俺の指示に従った。
日にち、学年、クラス……そして彼の名前を、利用者名簿に記入する。
「ハイ、そこ座る」
「は、はい……」
保健委員でもあるが、部活でよくお世話になっている保健室。
大体の場所は把握している。
俺は、処置の道具が置いてある棚の扉を開け、必要なものを取り出す。
棚の扉を閉め、彼の方を向くと、申し訳なさそうにこちらを見つめ、小さくなって座っている彼が目に入る。
見た目とは真逆の、小動物のような彼の姿に、思わずクスリと笑った。
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