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第91話
彼の右手を確認したところ、打撲のようだった。
次の授業もあるので、とりあえず10分だけアイシングすることにした。
チクタクと、時の刻む音だけが支配する保健室。
それにしても……。
アイシングしている右手を気にする彼を見る。
今日の彼は、少し様子がおかしかった。
何となくだがそう感じた。
あからさまじゃなく、ふとした時に感じた視線。
それは一瞬で、彼にとっても無意識のようだった。
鳶色 の瞳が、考えるように俺を見る。
その瞳に、俺の中で淡い期待が芽生えた。
彼が、曲げた膝を左右に動かし、回転椅子を揺らす。
落ちた前髪からチラリと俺を見る。
そして、彼の瞳はすぐさま前髪に隠れる。
俺の淡い期待が、濃く芽吹きそうになるのを感じた。
どうかこの淡い期待が、綺麗な黄金色の花を咲かせますように。
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