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第110話

「て、て、てらっ」 慌てる彼の声を無視して、そのまま肩に顔を埋める。 と同時に、シトラスの匂いが鼻を(くすぐ)る。 彼が使っている制汗剤の匂い。 いつもはほんのり程度だが、今はダイレクトに香る。 その匂いが、彼をこの手で抱きしめていることを実感させてくれる。 「お願い…もう少しだけこのままでいさせて…お願い…」 もっと実感したいんだ、君が俺に恋してくれてることを。 「……う、うん」 たったひと言の『うん』。 そのひと言に、彼の優しさが詰まっている気がして、自分の気持ちが溢れた。

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