110 / 140
第110話
「て、て、てらっ」
慌てる彼の声を無視して、そのまま肩に顔を埋める。
と同時に、シトラスの匂いが鼻を擽 る。
彼が使っている制汗剤の匂い。
いつもはほんのり程度だが、今はダイレクトに香る。
その匂いが、彼をこの手で抱きしめていることを実感させてくれる。
「お願い…もう少しだけこのままでいさせて…お願い…」
もっと実感したいんだ、君が俺に恋してくれてることを。
「……う、うん」
たったひと言の『うん』。
そのひと言に、彼の優しさが詰まっている気がして、自分の気持ちが溢れた。
ともだちにシェアしよう!