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第113話
彼は俺に戸締りを託し、資料室から出ていった。
彼を見送ってしばらく。
「…ハーーーッ!!」
俺は、息を吐いてその場にしゃがみこんだ。
「……マジかぁ。……コレ、夢じゃねーよな…」
まさか……自分の思いが通じるなんて。
でも、確かにこの手に彼の感触が残っている。
幼馴染み を好きだと自覚して、自分の恋愛対象が男だと認めて、周りとは違う自分のセクシャリティを受け入れた。
だから、"普通"の恋愛は諦めていた。
誰かを好きになっても、自分と同じセクシャリティでなければ、相手に伝えることさえはばかられる。
もし伝えれば、それ相応の代償を負う。
そう考えると、きっとこれからの人生、消化できない思いが何度も続くんだと思っていた。
けど、それは違った。
"普通"に彼に恋して、"普通"に彼のことで悩んで、"普通"に彼を傷つけて。
そして、"普通"に玉砕するかと思っていたら、奇跡が起きた。
そのどれもが、男女で起こるそれと変わりない。
自分が認められたような気がした。
そのままの俺でいいんだと。
そう感じることができたのも、全て彼のおかげだ。
彼が自分を好きになってくれて、本当…
――っくしゅん――
…ん?
くしゃ、み??
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