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第115話

「さっき、本人も言ってたけど、雅実、すげー悩んでた、苦しんでた」 一部始終を見ていた雅人が、真剣な声で俺に話す。 雅人の話を聞いていて、やはり自分の行動が浅はかだったと思った。 彼を悩ませておいてそれが嬉しいとか思った俺は、ホントにバカだ。 自分がゲイだと認める前、俺もあんなに苦しんだのに…。 その苦しみを彼にもさせた。 しかも、突然に。 振り返れば、彼と恋愛話なんてしたことがない。 もしかしたら、彼はたまたま"男の俺"を好きになっただけで、本来はノンケかもしれない。 そんな彼が、俺を好きと認め、それを俺に伝えようすること。 1週間という短い時間の中で、彼はその答えを出した。 目の前にいる"もうひとりの彼"を見る。 彼より一回り以上小さい背丈。 お洒落にセットされた黒髪と色白の肌。 まあるい双眼に、小ぶりだが形の良い鼻。 少し厚めの唇からは、快活な声。 彼とは全く似ていない"もうひとりの彼"。 ただ、鳶色の瞳だけは同じだった。 そして、その同じ鳶色の瞳が俺を見つめ、発する言葉以上に物を言う。 『"もうひとりの俺"を悲しませるな』 彼が俺の望む答えを出したのも、多分に雅人のおかげだろう。 雅人がいなければ、彼はずっと苦闘し、俺との関係を遮断したかもしれない。 雅人に対する敗北感。 俺の知らないところで涙した彼。 彼の涙の理由は俺で、そんな彼を支えたのが自分ではなかった。 悔しさがこみ上げる。 でも、彼を泣かせるのは今回限りだ。

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