117 / 140
第117話
それから数週間。
彼と気持ちが通じあった後も、特に何かが変わることもなく、今までのように俺は彼にべったりなまま。
彼の方は少し慣れたのか、どもることもなくなり、たまにべったりな俺をいなすことも。
今日で1学期も終わりか。
なんだか、濃い期間を過ごしたな。
「寺島?」
すでにローファーに履き替えた彼が、不思議そうに俺を呼ぶ。
「あ、ごめんごめん!」
俺も、慌ててローファーに履き替える。
「昼飯、どうすっかなーと思って」
思ってもないことを口にしながら、彼の隣に並ぶ。
「そうだね……」
"ん~"と考えながら歩き出した彼。
彼の歩幅に合わながら昇降口を出ると、熱すぎる日差しに目を細める。
そのまま横を見ると、彼も目を細め、右手で日よけを作っていた。
綺麗に縁取られた横顔が目に入る。
おでこからすっと目元に向かい、そこから高い鼻を上っていく。
鼻の頂上につくと、急に曲がり下り、ふっくらとした唇をなぞっていく。
緩やかな小高い顎をたどれば、魅惑的な長い首へ繋がる。
思わず"はぁ"と小さなため息を漏らす。
あの線全てを、味わいたい。
俺の視線に気づいたのか、彼がこっちを向いた。
ゆっくりと右手を下ろした彼。
俺を射抜く鳶色の瞳が、ジワリと熱を帯びていた。
「寺島、見すぎ」
そう言ってクスリと笑った彼に、ゴクリと唾を飲む。
「じゃあ、駅ビルのフードコートでいっか?」
一瞬、彼が何を言っているのか分からなかったが、昼飯のことかと思い出し、"あぁ"と小刻みに頷いた。
「暑いから、冷やしうどんにしようかな。んー、でもなー……」
再び前を向いて何を食べるか決めあぐねている彼。
先ほどの熱は全く感じない。
今のは…まぼろし?
刹那に垣間見た俺の知らない彼。
男であるにも関わらず、婀娜 な彼の表情が頭に残り、ドクドクと動悸が治まらない。
「寺島は何にする?」
いつもの彼が俺に聞く。
「俺は……」
真夏の太陽が照らす中、俺は昼飯のことより、その後の時間に思いを巡らすのだった。
Main chapter has finished !!
ともだちにシェアしよう!