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第117話

それから数週間。 彼と気持ちが通じあった後も、特に何かが変わることもなく、今までのように俺は彼にべったりなまま。 彼の方は少し慣れたのか、どもることもなくなり、たまにべったりな俺をいなすことも。 今日で1学期も終わりか。 なんだか、濃い期間を過ごしたな。 「寺島?」 すでにローファーに履き替えた彼が、不思議そうに俺を呼ぶ。 「あ、ごめんごめん!」 俺も、慌ててローファーに履き替える。 「昼飯、どうすっかなーと思って」 思ってもないことを口にしながら、彼の隣に並ぶ。 「そうだね……」 "ん~"と考えながら歩き出した彼。 彼の歩幅に合わながら昇降口を出ると、熱すぎる日差しに目を細める。 そのまま横を見ると、彼も目を細め、右手で日よけを作っていた。 綺麗に縁取られた横顔が目に入る。 おでこからすっと目元に向かい、そこから高い鼻を上っていく。 鼻の頂上につくと、急に曲がり下り、ふっくらとした唇をなぞっていく。 緩やかな小高い顎をたどれば、魅惑的な長い首へ繋がる。 思わず"はぁ"と小さなため息を漏らす。 あの線全てを、味わいたい。 俺の視線に気づいたのか、彼がこっちを向いた。 ゆっくりと右手を下ろした彼。 俺を射抜く鳶色の瞳が、ジワリと熱を帯びていた。 「寺島、見すぎ」 そう言ってクスリと笑った彼に、ゴクリと唾を飲む。 「じゃあ、駅ビルのフードコートでいっか?」 一瞬、彼が何を言っているのか分からなかったが、昼飯のことかと思い出し、"あぁ"と小刻みに頷いた。 「暑いから、冷やしうどんにしようかな。んー、でもなー……」 再び前を向いて何を食べるか決めあぐねている彼。 先ほどの熱は全く感じない。 今のは…まぼろし? 刹那に垣間見た俺の知らない彼。 男であるにも関わらず、婀娜(あだ)な彼の表情が頭に残り、ドクドクと動悸が治まらない。 「寺島は何にする?」 いつもの彼が俺に聞く。 「俺は……」 真夏の太陽が照らす中、俺は昼飯のことより、その後の時間に思いを巡らすのだった。 Main chapter has finished !!

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