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チラリと?!夏祭り 第8話

「へぇー、こんなとこあったんだー!」 「人もあんまいないし、結構穴場だろ?」 俺は、花火会場から少し離れた公園に雅実を連れて来た。 所々に外灯はあるが、薄暗く、木々も生い茂っており、夜は違った意味で雰囲気がある公園だ。 ただ、少し小高い丘になった場所にあり、見下ろせば先ほどいた花火会場が一望できる。 「雅実、あそこ座ろ?」 等間隔でいくつか設置されているベンチ。 先客は1組みのカップルのみ。 しかも、そのカップルは端っこのベンチに座っており、すでに二人の世界。 そんなカップルを羨ましいなと思いつつ、逆に人目を気にしなくていい状況に、俺は雅実の手を取ってベンチに向かう。 「て、寺島?!」 慌てる雅実をよそに、グイグイ引っ張ってベンチに座る。 キョロキョロしながら俺の手を離そうとする雅実。 「誰も見てないよ」 そう言って、俺は雅実の手を包むように握る。 賑わっていた花火会場とは違い、静かな公園。 時折吹く風が揺らす木々の(おと)と、一足早い秋のおとづれを告げる虫の()が優しくこだます。 「久しぶりに夏祭りに来たけど、やっぱりお祭りはいいな」 「だな」 花火まであと5分ほどだろうか。 楽しい時間はあっという間で、この花火が終われば、きっと夏休み明けまで雅実と会えないだろう。 だから、言っておかないといけない。 うやむやなまま、離れた時間を過ごしたくはない。 俺はひとつ息を吸い、体ごと雅実の方へ向ける。 「……ごめんな、雅実」 改まった声の俺に、雅実は俺の方に顔を向ける。 「やっぱり気になって…アリサが言ったことが」 少し揺れた雅実の瞳。 「俺、家族にも、誰にも言えてないんだ……」 俺は、視線を逸らし言い(よど)む。 最後まで言葉を続けるとこができなかった。 改めて自分が"ゲイ"だということを、雅実に言うことができなかった。 「気にしてないって言ったら噓になるけど……それは俺も同じだよ、寺島」 柔らかな雅実の声が、俺の耳に優しく響く。 「俺も、雅人が知ってるだけで、両親は知らないし。寺島がウチに遊びに来てくれても、きっと……"友達"として紹介すると思う」 「……うん」 「だから、今は寺島が俺のこと好きってだけで十分だから」 その言葉に顔を上げると、声と同じ、雅実の顔も柔らかく笑っていた。 「無理に誰かに言う必要もないし、俺の為に家族に言う必要もないよ。時間やタイミングが重要なことだってあるし、俺達のペースで、一緒に考えよ?」 俺の手の下にある雅実の指が動いて、俺の親指をしっかり掴む。 「な?」 大好きな笑顔が、しっかりと笑いかけてくれる。 待ち合わせで、アリサの言葉に傷ついた雅実なのに、逆に俺のこと気にかけて…。 「ありがと、雅実」 雅実がしたように、俺も雅実の手をしっかりと握り返す。 ――――ひゅぅ〜……ドーーーンッ―――― 「ホント、雅実を好きになってよかった」 ――ちゅ―― ――――ひゅぅ〜……ドーーーンッ―――― 花火に照らされた雅実の顔はキョトンとしていた。 が、すぐにクッと笑い、 「俺も」 ――ちゅ―― 「寺島、気持ちを伝えてくれてありがとう」 無邪気に俺を夢中にさせるのだった。

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