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チラリと?!夏祭り 第9話

――――……ドォーーーンッ―――― ――――パチパチパチパチ……―――― ひときわ大きな大輪の花が、じわじわと夜に溶けていく。 あぁ、最後の花火が終わった。 俺も雅実と夏の夜に溶けていきたい。 星のみが散らばる空を見上げたまま、晩夏の余韻に浸ったっていたが、そろそろ駅に向かわないとまたあの混雑に遭遇する。 もう通勤ラッシュのような電車は勘弁だ。 行きのように雅実と密着することを思うと……、雅実に手を出さない自信はないっ!! 「あ、雅人からラ◯ン……もう駅に向かってるって」 帯の間に入れていたスマホを取り出し、雅人からの連絡を確認した雅実。 ちょうどタイミングが良かった。 「じゃぁ俺達も、帰ろっか」 今年の夏は、いい思い出ができた。 来年は受験だけど、また雅実と一緒にきたいな。 俺は雅実の手を握ったまま、ベンチから立ち上がろうとした。 そのとき、 「っ!!」 雅実の顔が一瞬険しくなる。 「雅実?」 ゆっくり自分の足元に目を向ける雅実。 つられてその目線の先を追うと、雅実の右足、前坪にあたる指の股が赤く擦りむけていた。 「ごめん、雅実!!俺がこんな所まで連れてきたから!!」 俺は慌てて雅実の足元に、膝をついて(かが)む。 「あ、大丈夫だから!ちょっと下駄が履きなれなくて擦りむけただけだから!!」 雅実も慌てて(かが)んでいる俺に声をかける。 「大丈夫じゃないだろ?!血が出てんじゃん!!」 指の股はかなり擦れており、前坪に血が滲んでいた。 見ただけで痛そうなのが分かる。 「痛かっただろう?言ってくれれば、こんな遠くに来なかったのに…。無理に連れてきてごめんな」 「あ、うん……」 雅実の右足を取り、なるべくゆっくり下駄を脱がせる。 よく見ると、小指側の鼻緒の部分も擦れていた。 「あぁ、こっちも擦れてる……」 「あ、でも、こうなるかもと思って、絆創膏持ってきてるから!!」 俺に心配かけないように、雅実は懐から小銭入れを取り出した。 そこに一緒に絆創膏を入れていたようで、"ほら"と言うように絆創膏を見せた。 確かに、絆創膏を貼れば少しはましだと思うが、そのまま貼るのは……。 「あ、雅実!!ちょっと待って!!」 公園に水飲み場があったこと思い出した俺は、立ち上がり、すぐに水飲み場に向かう。 アリサに"夏祭りデートだったら絶対いる!"と言われ、ハンカチとティッシュを持ってきたのは正解だった。 水飲み場に着くなり、鞄の中からハンカチとティッシュを取り出し水に濡らす。 ハンカチは固く絞り、ティッシュは2枚、十分に水を含ませた状態で雅実のもとに戻る。 「ごめん雅実、待たせて!」 再び雅実の足元に、今度は片膝を立てて(かが)み、 「え、寺島?!」 立てた膝の上に雅実の右足をのせた。 「雅実。ちょっとしみるかもだけど、ごめんな」 俺は、水が滴るティッシュを、擦れて血が出ている雅実の指の股にあてる。 「ッン!」 やっぱりしみたようで、キュッと目を瞑る雅実。 「ごめん、雅実」 それでも、そのまま絆創膏を貼るよりかは水で拭いた方がいいだろうと思い、濡れたティッシュで押すように擦れた指の股を拭く。 同じように小指側の擦れている箇所も濡れティッシュで優しく拭く。 そして、乾いたティッシュで擦れた箇所の水気をとり、最後に固く絞ったハンカチで濡れた雅実の足を拭きあげた。 「ヨシ、これでいいかな」 「あ、ありがとう、寺島」 申し訳なさそうに礼を言う雅実。 逆だよ。 俺の方こそ、足がこんななるまで歩かせて。 ホント申し訳ない。 と、この時までは確かに思っていたんだ。

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