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衝動

 学校は夏休みに突入。  新宿歌舞伎町及びゴールデン街や2丁目周辺の  覇権を巡って敵対組織との対立がいよいよヤバくなり  そうだ、という事で。  しばらく組の送迎車で登校する。  そうして1日の夏期講習を無事終えると、  放課後はまた多くの学生の注目を浴びながら、  朝同様校門前に横付けされた良守くんの車へ。  俺はそんなたいそうな身分じゃないからと、  遠慮したけど。  竜二曰く、  この数週間でお前が竜二(煌竜会若頭補佐)の(イロ)になった事は  多方面に知れ渡ってしまった。  だから俺や兄弟達同様何時何処で命が狙われるか  分かんねぇんだよ。  って、良守くんが俺専属の護衛兼世話役になった。 「―― そんな恐縮しないで、気になった事は何でも  言って下さいね」  俺とタメだけど、  良守くんは俺よかずっとしっかりしてて  とても謙虚で優しい。      ***  ***  ***    それまで竜二の食周りの世話をしていた(ふみ)さんから  徹底的に料理のコーチングをして貰ったおかげで、  俺の料理の腕前は格段に改善されバージョンアップした。  これで誰からも    ”味見をしない奴のアレンジ料理ほど恐ろしいモノはない”  とか  ”マモの料理を食う時、胃薬と腹下しの薬は必須アイテムだ”  なんて言われる事はない、だろう。    「―― ごちそうさまでしたぁ。  はぁ~、喰った喰ったぁ」 「はい、お粗末さまでした」  竜二はダイニングからリビングに移動して  ゴロンっと絨毯に寝っ転がり、  ポケットからタバコを出しジッポで  シュボッと火をつけた。  フゥーと煙を吐く。  そして食べ終えた食器を流しへ運び  食器を洗い出す真守を見た。 「お前ってホント何でも出来んのな?」 「家事は俺の趣味だから……って、手嶌さんっ」  俺は泡の付いた手で駆け寄り、  竜二のタバコを取り上げた。 「2日前、智之(としゆき)先生に注意されたばかりでしょ」 「んだよ。返せって。  食後の一服がうまいんだからよ」 「だめですっ」 「真面目くさいこと言ってんじゃねぇよ」 「だ、だめ。あぶないって、あっ」  2人はもみ合い、  竜二が上になる形で俺を押し倒した。  竜二はいつもはほぼ前髪で隠れてしまっている  俺の見開く大きな瞳をじーっと見つめる。 「あ……ん、どうし ―― ?」  竜二は俺の眼鏡を外した。 「ち、ちょ、何も見えな……てし ―― んんっ!」  いきなり何を思ったのか、俺の唇にキスをする。  (な……に?!) 「なにすっ……んぐっ」  肩を押す俺の手を掴み床に押しつけた。  俺の舌をタバコ臭い竜二の舌が掬いあげ強く吸うと  唾液が口の端から溢れ出る。  ジタバタ動かしていた俺の足は次第に  動かなくなる。  チュッチュッ ―― という音だけが部屋に響き、  俺が抵抗しないとわかると竜二の手の力が緩み  俺の手からタバコをとりあげ、灰皿に押し付けて  消した。  そして竜二の片手がズボンの上から俺のモノに  触れたその瞬間  我に返った俺は竜二を思い切り突き飛ばした。  竜二は壁に背中をぶつける。 「いてっ。いてぇなぁ」 「あ、えっと ―― ご、ごめ、なさい……」  俺は真っ赤になりながらも  シャツの袖で唇をゴシゴシ拭い。 「ホントにごめんなさい」  と、部屋から飛び出て行った。 「ナツっ!!」      竜二は米噛みに手をやり、  もう一本タバコを取り出した。  ***  ***  ***      七都芽はベッドの上に横たわった。  (俺、一体どうしたんだろう……)  ドキドキと心臓が ―― 鳴る。  竜二に舌を絡めとられ、  嫌なはずなのに頭の芯がジンジンしてきて  ……力が抜けちゃって。  信じられないけど……か、感じてしまった。  さらに竜二に髪触れられて、  神経が通っているわけないのに  髪の毛一本一本が竜二の手の温度を感じて ―― 「あっ」  七都芽はガバッと起き上がり、前のめりになる。  (う……うそ。なんで?)      両手で脈を打ち始める部分を抑えた。  (硬く ―― なってる? なんで? なんで?    なんでぇぇぇ ―― っ??)        ズボンの中に手を入れそれにそっと触る。 「んっ……」  強烈な刺激が七都芽を襲った。 「はっ……あっ」  手で軽く握るとゆるゆると前後に動かした。  竜二の唇、舌の動きを思い出す。  大人のキスってあんなに気持ちがいいの……? 「んっあっ ――」  射精感が七都芽の手の動きをより早める。 「あっ ―― もう、出……る」  ビクンビクンッと体を震わせ、  手の中に欲望を放出させた。  ハァハァハァ……と肩で息をする。 「……おれ、アイツより最低かも」  (あいつのキスで……ヌイちゃったよ)  証拠隠滅。  ティッシュで証拠を拭いとり、ゴミ箱に捨てた。

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