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5年前のこと……

 七都芽はすっかり忘れているようだが ――   そもそも、竜二が七都芽と初めて出会ったのは、  2017年の春先の事。  連合の会長から新しく任された縄張りの見分へ行った  帰り、40絡みの中年男に絡まれてる真守を見つけた。     「―― 止めてっ。離して下さい」  七都芽の腕を掴んで離さないその男は息遣いも  鼻息までも荒くなってきた。 「何もったいつけてるんだ。アフター込みで3万だよ。  相場より上げてやってるじゃないか」  こんな風に七都芽と、この40代後半位の小父さんの  押し問答は、夜の盛り場の片隅でかれこれ10分は  続いている……。  都会に住んでいるからと言って、高校生皆んなが  遊び慣れているワケじゃない。  彼・桐沢 七都芽は、新宿のとある場所に来た途端  目的の場所にも辿り着けず、しつこい小父さんに  絡まれてしまった。  迷って・ただ道を聞いただけなのに、  さっきからずっとこの調子だ。 「嫌だ……ホントに違うんです。嫌だっ! 助けて……」 「いつまで愚図ってるんだよっ。ウリ専小僧の癖して  あんまりつけ上がるなよ」 「ウリ ―― !! ち、違いますっ! 俺はそんな  んじゃないっ! 誰か ―― 誰か助けて!」  七都芽が小父さんから逃げようとしたら、  何処からともなく”いかにも下っ端”的な  雰囲気をまとった若い男がすっ飛んできた。 「―― おーっと、逃げんなよ。大人しそうな顔して、  枕探しとは ―― ヤラずボッタクリされたんじゃ、  カオが立たねぇんだよっ」    「誤解です。ちが ――  」  問答無用で男に思い切りほっぺたを殴られた。 「とぼけんな。事務所でナシつけるぞ。店にも報告  するからな。来いっ」  そこへ、第三の男登場。 「おいっ。ちょーっと待て」  但し今度の男は”ナシつけるぞ”と凄んできた  やくざ風の男とは、格が違うと言うか……  まとっているオーラが違うというか……  七都芽みたいな超一般庶民とは住む世界がはっきり違う  容易には人を寄せ付けないような雰囲気を持った  男。  やくざ風の男の顔色がサーッと変わった。 「あっ ―― こ、こりゃあ、手嶌の若。その節は  どうも」  わか ?  も、もしかして、この人もヤクザ?  しかもかなり偉い人のように見える…… 「何だか、不似合いなお子様連れてるじゃねぇか。  何処に行く気だ」 「あ、あぁ ―― いえ、こいつこんなナリですけど  うちのイメクラの社員でして」 「ちが ―― 違いますっ! 俺は ――」 「身分証明証、見せてみろ」 「は?」 「学生なら学生証とか、生徒手帳とか持ってんだろ。  オラ、早くしろぃ」 「は、はい」  何がなんだか、ワケ判らなかったけど、  やくざ風の男が ”手嶌の若” と呼んだ男に  自分の学生証を見せた。 「(深いため息)……何処の誰が、未成年じゃねぇんだ  中学2年生って書いてあんじゃねぇか」 「ええっ!! ―― そんな、 じゃ、まさか本当に……」 「人違いです。何度も言ったじゃないですか!」 「中田よ。シマ違いのオレがシノギに口出すほど  暇じゃねぇがな……ケツ持ちすんなら、ガキに  絡むようなマネしてんじゃねぇぞ! こら(ゴルァ)」  やくざ風の男は ”手嶌の若”なる男に一撃で  沈められ ――、 「す、すいません……」 「今回は未遂って事で見逃してやらぁ、ガキ殴ったのは  今のでチャラだぞ。そのホモ親父連れてさっさと失せろ」 「ほ、ほんとすいません。申し訳ない」  男と小父さんは這々の体で走り去った。 「次は―― そこの糞ガキ!   そんなナリで商売する気か。ちょっと来いっ!」 「違う。俺、そんなんじゃない」 「てめぇな、今さら言い訳したって ――」 「本当だもん! さっきの小父さんに道を聞いたら、  いきなり腕を掴まれて……」 「おい…… じゃあ、ほんとにただの ――」 「売春なんて、そんなつもりはない! 俺はただ、  2丁目へ行きたかっただけなのに……」 「あー? てめぇみたいなガキが何で2丁目なんぞへ  行くんだよ」 「あなたまで行っちゃダメだって言うんですか?!」  長い時間理不尽な事で拘束され非常に腹立たしく  なって、何だか泣きたくなってきた。 「あ、イヤ、別にダメって事はねぇが ――」 「もう、新宿怖い……ワケ分かんないよ……」  ググッと涙がこみ上げてくる。 「ワケ分かんねぇのはこっちだよ……って、  お、おい ――」  堪え切れずにとうとう泣き出した。 「わ、分かった ―― 分かったから泣くな」  それでも泣き止まない七都芽を ――    「ちょっ、ちょっとこっち来い」 「嫌だっ。殺されるぅっ! 人攫いっ」 「バカっ。助けてやったのに、どうゆう言い草だ??  お前は。人聞き悪い事いうなっ。いいから来い」   とりあえず人通りの多い所まで連れて行って、  七都芽を落ち着かせ。  タクシーを拾って、半ば強引に乗せた。     「これに懲りてこんな街には2度と来るなよ」  七都芽を乗せたタクシーが遠ざかって行くのを  ぼんやり見やって、ほぅ~っとため息をついた。     これが、七都芽と俺の初めての出逢いだ。    5年も経ってからじゃ、七都芽があの時の事を  覚えてないのも当然だが。  ってか、新宿2丁目で風俗のチンピラに  拉致されかけたなんて、有名進学校に通う  お坊ちゃまには抹消したい黒歴史だったろう。    俺は偶然にも出身高校が七都芽と同じ祠堂学院  なので、今も卒業生として学院の支援に回る機会も  多く。  学校の年中行事の度、生徒会の役員として忙し気に  働く七都芽の姿をけっこう目にしていた。  だから、成績はトップクラスで人望もそこそこにある  優等生が、何故、ゲイの街なんかにいたのか?  が余計気になっていたのだ。

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