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花火
結局、あの日、酷く酔っ払って帰ってきた夜以外、
竜二は俺を抱こうとも、手を出そうともせず……。
やたら暑かったり・寒かったり、
気象の変動が激しかった今年の夏も終わろうと
していた。
その夜、近くの川岸で花火大会があって。
荒川沿いに建ってるこの家は
屋上からよく見えると言って久しぶりの
花火見物に誘われた。
「なに、このオヤジチョイス……」
縁台の上にビールと焼き鳥に枝豆。
俺には麦茶。
「何とでも言え。
夏の花火見物ったらコレっきゃねぇだろ~」
と言ってどっかと座り込む。
竜二と2人で夜空に大きく咲き誇る光の花を
見上げる。
とてもキレイだった。
花火なんてちゃんと見たことなかったなぁ、と思う。
花火とか祭りとかある日は父さんと母さんは
大抵仕事でいなくて。
ボロい都営住宅の一室で年の離れた兄と2人、
聞く低く響く花火や太鼓の音は、
華々しいイメージとはかけ離れ。
いつも寂しい気持ちが増すだけで嫌いだった。
そんなことを思いながら、
いくつも咲いては華々しく散っていく
色とりどりの火花をただぼんやり見ていた。
ふと、横を見ると
何故か竜二の熱っぽい目が合って……。
目が離せなかった。
少し竜二の顔が近付いて……。
キスされるかと思った。
……けど、竜二は少し苦しそうに目を眇めて。
「ビール切れたから取ってくるわ」
そう言って立ち上がり、
足早に昇降口から降りていった。
なんで……?
なんでなんもしねぇの?
ヤるために同棲してんだろ?
だったら、ちゃんと使えよ!
俺を……俺の身体を使えよ!
よく分かんないけど、目尻に涙が滲んで、
浴衣の袖の裾で擦るように拭った。
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