18 / 23

花火

    結局、あの日、酷く酔っ払って帰ってきた夜以外、  竜二は俺を抱こうとも、手を出そうともせず……。  やたら暑かったり・寒かったり、  気象の変動が激しかった今年の夏も終わろうと  していた。  その夜、近くの川岸で花火大会があって。  荒川沿いに建ってるこの家は  屋上からよく見えると言って久しぶりの  花火見物に誘われた。 「なに、このオヤジチョイス……」  縁台の上にビールと焼き鳥に枝豆。  俺には麦茶。 「何とでも言え。  夏の花火見物ったらコレっきゃねぇだろ~」  と言ってどっかと座り込む。  竜二と2人で夜空に大きく咲き誇る光の花を  見上げる。  とてもキレイだった。  花火なんてちゃんと見たことなかったなぁ、と思う。  花火とか祭りとかある日は父さんと母さんは  大抵仕事でいなくて。  ボロい都営住宅の一室で年の離れた兄と2人、  聞く低く響く花火や太鼓の音は、  華々しいイメージとはかけ離れ。  いつも寂しい気持ちが増すだけで嫌いだった。  そんなことを思いながら、  いくつも咲いては華々しく散っていく  色とりどりの火花をただぼんやり見ていた。    ふと、横を見ると  何故か竜二の熱っぽい目が合って……。  目が離せなかった。  少し竜二の顔が近付いて……。  キスされるかと思った。  ……けど、竜二は少し苦しそうに目を眇めて。 「ビール切れたから取ってくるわ」  そう言って立ち上がり、  足早に昇降口から降りていった。  なんで……?  なんでなんもしねぇの?  ヤるために同棲してんだろ?  だったら、ちゃんと使えよ!  俺を……俺の身体を使えよ!  よく分かんないけど、目尻に涙が滲んで、  浴衣の袖の裾で擦るように拭った。                 

ともだちにシェアしよう!