19 / 23

不協和音

                    夏休みが明けてしばらくは、  秋に控える生徒総会や大運動会の下準備が  ピークを迎え ――。  教職員も生徒も勉強以外の作業が増え  老いも若きも体へ鞭打つよう、  馬車馬みたいに働く(働かされる)  4月に進級又は新入学した学生達の  転校&自主退学率が高くなり始めるのも  この時期だそう……。  ”文武両道”を基本理念とする祠堂学院では  学校の勉強が良く出来る、即ち、  成績優秀は当たり前。    プラス、何かしらの運動能力が優れている者だけが  学内サバイバルで勝ち進む事が出来る。    一見、のほほ~んとしてる七都芽も、  その親友・あつしに勇人も、  学績は学年ベスト20の常連で七都芽は合気道初段、  あつしと勇人は共にバスケ部のレギュラーだ。    学校経由で親バレした俺の性的指向が原因で  我が家に春の嵐が吹き抜け、早や2ヶ月 ――  ホームルームが終わって、教室から出たところで  享兄さんに呼び止められた。  ”ちょっと、一緒に来て欲しい所がある”  との事。  兄さんの運転する車は学校に一番近い首都高の  入り口から千葉方面へ向かっている。  途中、**パーキングエリアで小休憩をとって、  車は更に南へ向かう。  ”一緒に来て欲しい所がある”って、言ってたけど 「……あ、あの、兄さん。これから、何処行くの?」 「―― ナツ、お前は何も心配しなくていいんだよ」  兄さんに行き先を訊ねてみると、  何だか憐れまれているような、いつになく  優しい柔らかな眼差しで見つめられた。  不意に理由もなく、不安が襲う。  なんだろう……この嫌な胸騒ぎは……。  俺がやっぱり兄さんと一緒に行くのは次の機会に  しようと、口を開きかけたら ―― 「ほら、見えてきた」  と、前方を目顔で示された。  ―― 俺の不安は的中した。  兄さんが車を停めたのは、兄さんの親友が開業する  心療内科専門病院の駐車場。                                 ※大人の ~は、ココまで掲載済み 「さ、降りなさい、七都芽」 「でも兄さん、ここ……」 「本当なら夏休みが始まったら直ぐ連れてくる予定  だったんだがな、私の方の用事が立て込んで  しまって」 「そんな事を聞いてるんじゃないっ!   なんで……  なんで手嶌さんは判ってくれたのに、兄さんとか  父さんは判ってくれないんだ?! 俺は病気じゃ  ない。こんな病院で診察を受けたって、俺の性癖  まで治せない」 「あぁ、判ってる、きっと受験ストレスとかで  悩んでいるんだろう。ここのカウンセラーの先生は  凄腕なんだ。引きこもりや非行歴のある若者を何人も  更生させた実績もある」 「だから俺は、引きこもりでも不良でもない。  俺の頭が可怪しいって考えてるの?」 「一過性の思い込みで人生に汚点を残す事はない。  大丈夫だ。少し皆んなで勉強すれば、きっとお前も  立ち直れるさ」  だんだん息苦しくなってきた。 「立ち直る、って、俺は何も間違ってないよ」 「ナツ、とにかく落ち着こう。何も怖い事はないよ。  最近はいい薬もあるそうだから」 「……兄さん? 俺が一番怖いのはそうゆう偏見だ。  どうしてもう少し真剣に考えてくれないの?」 「考えてるだろ! 考えてるからこそこうして  専門の権威に ――」  もう、たくさんだっ! 「違う。父さんと兄さんは世間体が気になって、ただ  臭い者に蓋をしようとしてるだけ」 「七都芽」  俺はこれ以上、兄と同じ空気を吸っているのさえ  嫌になって助手席から降り、闇雲に歩き出した。  兄が呼び止める声が後ろから聞こえてきたけど、  構わず歩き続けた。

ともだちにシェアしよう!