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弱り目に祟り目

 途中で、ポツ ポツと雨が降り出した……  濡鼠の野良猫 ―― 弱り目に祟り目。  ざまぁない。  20分程歩いた所で、見慣れない風景に  やっと足を止めた。 「……ココ、何処?」  自分が半端ない方向音痴だという事を  すっかり忘れて歩き続けた結果がコレだ。  そこは3車線もある国道沿いの道で。  沿道に見えるのは廃墟や古びたラブホばかり。  タクシーを拾おうにも、夕暮れ間近の国道は  大型車が走っていくだけだ。 「どうしよ、帰れない……」  ポケットの中で鳴り出したスマホの着メロに  飛び上がるほどびっくりした。  あ、そうだ、でんわ ――  かけてきたのはあつしだった。 『一体、何時まで待たせる気だ?』 「へ?」 『へ、じゃねぇよ。今夜は勇人の誕生日だぞ。  サプライズパーティーしようって言い出したのは  ナツ、お前だろが』  あ、そうだ、5時に公園通りの東武ホテルで  待ち合わせてたんだっけ。  でも、あつしの声を聞いたら気持ちが緩んで、  急に涙がこみ上げてきた。 「あ、つしぃ……」 『あ、お前また泣いてんのか? 待たされた事は  しょ、正直ムカついたけど、泣くな』 「……」 『頼むよ、泣くなって』 「ち、が……」 『……ん?』 「……違う」 「で、お前今何処にいるんだ?」  泣きながら今の状況を話したら  『バカ野郎! それを早く言えっ』  って怒鳴られた  けど、そんな怒鳴り声も  あつしの声だとすっごく優しく聞こえて、  怒られてるのに嬉しかった。 『これから迎えに行く、そこから一歩も動くなよ』  そう言われて”うん、判った”と返事をした次に  大きなくしゃみも出た。 『あ、いや、一歩も動くなは撤回だ。そこから一番  近いとこでとりあえず雨宿りしろ。それから、  国道沿いなら道路標識くらいあるだろ。何って  書いてある?』 「えっと……」  ちょうど近くにある標識を見上げる。 「国道**号……**市まで**㌔、って読めた」 『OK。大体判った。渋滞に引っかからなきゃ30分位  で着くと思う。それまで雨宿りして待ってろ』 「うん、判った ―― ね、あつし」 『ん?』 「心配かけて、ごめんね」 『なんちゃあないさ』  あつしは本当に30分以内で来た。  地理に強い人って尊敬する。 「ったく、すっかり体が冷えきっちまったじゃねぇか。  早く車に乗れ」 「でもシートが濡れちゃうよ」  それほどまでに俺はびしょびしょだった。 「んな事、気にすんな。ただでもオメガは環境の変化に  弱いんだから、風邪でもひいたら大事  (おおごと)だ」  車に乗り込もうと屈んだ拍子に  ぐらりと視界が歪み、  七都芽は隣りに立つあつしの腕を掴む。 「七都芽?」  心配げな彼の声に、頭を振って大丈夫と答える。 「本当に? お前、めっちゃ顔色悪いぞ」  腰を抱かれ、顔を覗き込まれた時、  身体の奥底で何かが膨らんでいくのを感じた。 「おい、七都芽?」  男の匂いが鼻孔をくすぐり、  七都芽は自分を抱きかかえる人物を見上げた。  欲しい。  目の前にいるこの男が今すぐ。  身体の奥底から広がったこの熱を、  アルファなら解放してくれるはずだ。     ――と、本能的に感じた。 「お前……もしかして」  辺りのざわつきが遠くに聞こえる。 「とりあえず、ここはまずいから移動するぞ」  その言葉の直後、あたりの風景が歪む。   「しっかりしろ」 「ご、めん、めーわく、かけて……」  普通の状態ならこのまま車で移動したが、  あつしは神経をピンポイントで集中させ  瞬間ジャンプした。  トップランクに位置する貴重種のアルファである  あつしは、生まれながらに授かった特殊能力を  使って瞬時に時空間移動をしたのだ。

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