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初めての発情

 知らない天井に、知らない調度品。  町外れの道路脇にいたはずなのに、  ここはどこだろうか。 「ダチの家だ、心配ない。この恰好じゃ  ホテルいけねーし」  その部屋の片隅や飾り棚には、  アメリカングリズリーの剥製や白頭鷲の剥製、  蛇革、いかにも高そうな象牙とかが、  飾られているし ――  壁には『色即是空』『酒池肉林』と書かれた  書道の額縁も飾られていて、極めつけは、  新暴対法の規制で組事務所には飾る事が  出来なくなった暴力団の証”代紋”が  デカデカ飾られている。  (さ、さすがあつしぃ ―― 顔が広いな。   で、でも、ここの住人があつしのどうゆう   友達なのか? は、聞かないでおこう)  学校からそのまま外出したので、  2人は制服のままだった。 「―― ヒートしたままで出歩くのも危険だからな」  ヒートと言う言葉を聞いて   ”自分にもいよいよ”という気持ちと  初めて自分がどんな状況に置かれているか  気が付く。  以前保健体育の授業で見た、  啓発DVD・オメガの発情。  普通アルファはオメガの匂いに反応するもんだと  思っていたが、相手がトップクラスに位置する  貴重種の場合関係なくなるのかな……    蕩けた表情で男のモノを舐め、  自分から欲しいとねだり縋り付く姿――  あんな風に自分もなるんだろうか?  あんなふうに……怖いっ。 「あ、あつしぃ ――!」 「―― っ……そんなに匂い大放出すんなよ。  流石の俺だって、我慢できなくなる」  珍しく余裕のない声で、あつしは言う。 「お前、薬持ってるか」 「くす……り……」  それが抑制剤の事だと  僅かに残る理性で気がつくが、  それよりも今は目の前にいるアルファが  欲しくてたまらなかった。  身体が熱い。  自ら濡れる事などなかった後孔から、  愛液が溢れてきているのが嫌でもわかる。  七都芽はあつしの首に腕を絡め、  鼻にかかる声で言った。 「ね、抱いて……」 「お前、意味わかっていってんの」 「わかって……る、から。あつしがほしい……」 「……っ」  あつしが顔をゆがめ、そして首を振る。  ざわざわと得体のしれない波動が、  触れられた肩から背筋を通って、  尾てい骨へと抜けて行くのをあつしは感じた。 「あつし……」  思いつめたような視線を外さないまま、  吐息まじりに名を呼ばれた。  今の七都芽が自分に何を求めているのかも、  良く分かっているが、あつしは絶対聞き入れては  いけない気がした。  そうでなければ、何故さっきから頭の片隅で  警報ランプがチカチカと点滅しているのだろう。  ―― そうだ、逃げよう!   とりあえずここは逃げるべきだ。  警報ランプが作動してから何秒も遅れて、  あつしの緊急脱出装置にスイッチが入った。  逃げを打つため腰をソファから浮かしかけた  あつしを、七都芽は素早く押さえ込んだ。  ―― うう”っ……!  あっさりと逃げ場を失ってあつしは内心で呻いた。  『なにしてんだよ?』とか『放せよ!』とか、  言おうと思えば今この状況で使えそうなセリフは  あったのだけれども、目の前の七都芽にぶつけるのは  間違っているように思えた。 「あ ―― 七都芽……?」  なんか言って気を逸らせようと、  あつしが口を開きかけると、  ふいに七都芽の右手があつしの顎を捕らえて、  その親指が言葉を封じるようにあつしの唇を  塞いだ。 「……っ……」  瞠目して息を呑み、  あつしはその場から動けなくなった。  七都芽の指があつしの唇の輪郭をそっとなぞった。  薄い粘膜の表面を滑った硬い指先が、  意味あり気に唇を割ってあつしの歯に触れる。  発情しているにしろ、ふざけているにしろ、  七都芽のコレは明らかに性的はニュアンスを含んだ  仕種だった。  残りの指で顎の下をそろりと撫でられて、  びくりとあつしは身体を震わせた。  鳥肌が立つような感覚は、しかし、  嫌悪感ではない事に気づきあつしは愕然とする。  ――な、なんで……!?     七都芽は一番の親友だ。  ……この状況はシャレにもなんねぇよっ!  どちらかというと奥手で、  恋愛感覚に対しての感度が鈍いところがあるかも  しれないと自分でも思うが、さすがにこの状況は  どういう事なのかわかる。  じりと体重を委ねてきた七都芽の、  ごく至近距離に近づいた男っぽい容貌から  目が離せない。  七都芽の眇められた双眸が、捕食者のものになる。  ―― ど、どうしよっ!  たっぷりとした厚みのあるソファの背に、  仰向けにゆっくりと押し倒されながら、  あつしは必死に考える。  が、もっと問題なのは、押し倒されてなお、  自分がなぜか無抵抗のままだという事だった。  目の焦点が合わないくらい七都芽の顔が近づいて、  ついに観念したあつしは両目を閉じた。 「んっ……」  想像していたより柔らかな感触に  思わず喉が鳴った。  化粧品の匂いなんてしない、乾いた男の唇。  七都芽の、――唇。  それがあつしのに押し当てられて、  それから角度を変えて、  もっと深く口づけようとしてくる。  七都芽の舌先があつしの歯列をそっと割って、  忍び込んだ舌先が、あつしの上顎をそろりとなぞる 「あ、はぁ……」  (やべぇ……めっちゃ、気持ちいい……)  未だ未体感の新感覚に胸を喘がせて薄目を開けると  上気した七都芽のシャープな頬のラインに汗が光って  いた。  長いキスに、発情のせいだけではない酩酊の波が  あつしを飲み込み始め、もうどうにでもなれと  自棄気味に思ったとき、インターフォンが鳴るのが  聞こえた。  急かすように2、3回続けて鳴らされる  インターフォンに、はっとしたようにあつしは  七都芽の体から身を離した。  七都芽も負けじとあつしを引き寄せる。 「お前 ――」  そして再び言葉封じのキッス。  玄関口の外からは女性の声 ―― 『**さぁーん? **さぁーん? もうっ、  参っちゃう、いつ来てもいないんだからぁ』  七都芽はあつしの耳元へ口を寄せ、小声で問う。 「誰? この女」 「知るかよ。ココはダチの家だって言っただろ」 「あ、そうだった……」  すると、今度は”ガタン”と音がして  玄関ドアの新聞投函口から何かが投げ込まれた  気配がした。  足音が遠ざかっていく ―― 「アハ ―― 行っちゃった」 「あ、あのさ、七都芽。  とりあえず緊急処置でフェ*抜き  してやっから、それで勘弁してくれね?」 「あつしが、俺のを、か?」 「ちょいと失礼~」  あつしは七都芽のボクサーブリーフを制服のズボン  ごと引きずり下ろし、一気に足からも抜き取った。 「www ――」  自分から誘った割にはこの程度で七都芽は  慌てふためく。 「わぉ ―― も、ギンギンじゃん。  それにしても、デカい、な……」 「そ、そんなにマジマジ見んな」  今になって照れている七都芽を見て  ”めっちゃ、可愛いっ!”と心の中で大盛り上がり  まずはゆっくり視線で犯していく。 「お前、意外といじわる……」 「今さらだな」  そして、七都芽のナニの先端で淫猥に光る、  今にも溢れて零れ落ちてしまいそうな先走りを  尿道ごと指先でグリグリ ―― 「あ、はン ―― それ、ダメ……」  ビシュクッ!!  七都芽、あっけなく射精。  しかもその白濁は、何回かに分けて結構な量が  吐き出された。  でも、ヒート時のソレは1度達した程度では  勢いをなくさない。 「あ、ン ―― あつしぃ、どうにかしてよ……」 「ハイ ハイ。ったく、手のかかる王子様だ

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