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逃避行

真っ暗闇の中……床に寝かせられていた。 ずっと繋がっていた筈の宗方の姿はない。 夢だった? 頭を確認すると耳があるし、尻尾も生えたままだし腕も毛皮に覆われている。 夢では無かった。 宗方は? 気配を探ると、案外近くにその気配を感じた。 数分置いて、ガラリと扉が開き宗方が入ってくる。 「目が覚めたか…一人で不安だった?そんな寂しそうな顔させてごめん、役にたちそうなモノが無いか探してたんだ」 眠ってしまった俺を責めるのではなく逆に謝ってくる。 責められた方が楽なんだけど。 「ううん……こんな時に呑気に寝ててごめん」 「それは俺が無茶させたから……」 申し訳なくなるぐらい宗方は優しい。 「音羽も分かってると思うけど、今まで通りの生活はもう送れないと思う」 「……うん」 流石にそこまで馬鹿じゃない。 こんな姿で世に出れば、騒がれ、保護とか何とかの名目で連れていかれて、研究されるんだろうか。 「人のいない場所で二人で暮らそう?」 「二人で?……どうやって……」 直ぐには頷けない。 家族の事とかあるし……正直、二人で生きていく自信が全くない。 俺には何の技術も知識もない。 「山に入れば獣がいるだろう?それを狩って生きれば良いさ」 「狩りなんて出来ないよ……」 「俺がやる。音羽を飢えさせたりしないから……一緒にいたい」 「宗方の家族は…どうするんだよ?」 家族…生活…未来……全てを棄てさせてしまう。 優秀な宗方はきっと一流企業に勤めて出世して……安泰な人生だったろうに。 「これも獣人になった影響かな……音羽さえいれば他に何もいらない」 この状況の原因は俺。 被害者の宗方がここまで言ってくれているのに我が儘は言えない。 「宗方が……それで良いなら……」 宗方は満足そうに笑い、尻尾を揺らした。 「この格好じゃ目立つな……完全な獣の姿になった方が目立たなそうだ……」 「そんな事出来るのか?」 「分からないけど……やれそうな気がする」 宗方はおもむろに服を脱いで四つん這いになって目を閉じた。 暫くその姿を見守っていると……宗方の毛が揺れ始め……体が徐々に変化していった。 目の前には神々しいまでの真っ白な狼の姿が窓から射し込む月明かりに照らされた。 月の光を受けて金色に輝く瞳。 「……キレイ」 『ふ……音羽に誉められると照れるな……』 恥ずかしそうに顔を振る。 「俺も出来るかな……」 宗方を真似てやってみたけど……一向に変わらず、諦めて服を着た。 宗方はカーテンを引っ張り剥がした。 『頭をこれで隠して、俺の背中に乗れ。必要そうな物は鞄に詰めた。それを持っててくれるか?』 ズイズイと鼻先で鞄を差し出してくる。 その鞄を背負うとカーテンを頭から被り、宗方の背に跨がった。 「役立たずでごめん……」 『音羽の存在そのものが俺にとって、なくてはならないものだ……しっかり掴まってろよ……』 俺を乗せた大きな白い狼が闇へ向けて走り出した。

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