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逃亡先

「うわっ!!速っ!!」 車ならボディによって遮られる筈の風が直に辺り、生身でスピードを体感させられる。 乗馬なんて経験のない俺は振り落とさせない様に宗方の体にしがみつくのがやっとだ。 スピードだけではなく、跳躍も桁違いで……恐怖に目を閉じてしがみつき続けた。 『この辺までくれば平気だろう』 目を閉じていたのでこの辺がどの辺か分からないけど、空は白みはじめていた。 気が付けば体を隠していたカーテンが無い。 「どっかで落としてきたみたい……誰かに見られてたらどうしよう…」 『気にするな…その時はその時だ…俺はお前を守るだけ』 落ち込む俺に、すりすりと顔を擦り付けて慰めてくれる。 ここが何処だか分からないけど、辺り一帯深い森だ……。 『山を一つ越えれば町がある……生活に慣れてきたらもう少し山の奥に行こうと思ってる』 「うん……」 新天地……。 しかし何をすれば良いのか分からない。 『こっちだ……まず住む場所を確保しよう』 何を目指して進んでいるのか分からないけど、宗方の後ろをついて歩く。 段々違和感に気付いた。 「宗方……何か……匂う」 『気付いたか?巣と飯の調達に丁度良いと思ってさ……』 目の前に洞穴が現れ……中から家主が出てきた。 「……熊」 『離れてろ音羽。怖いなら目を閉じていて……』 グルルル……と低い声を出して、宗方は体勢を低くした。 言われるままに木の陰に隠れて目を閉じた。 咆哮が森に響く。 恐る恐る木の陰から顔を出すと、2頭の熊が首から血を流し倒れていた。 宗方がどう倒したのか分からないが……。 「夫婦……だったのかな……」 『かもな……これが食物連鎖だろ。強い奴が生き残る』 弱い生き物は食物になる……。 倒れた熊が未来の自分に見えた。 俺もいつかこうなる……のかな。 頭を振って無理やり笑顔を作った。 「宗方……順応能力有りすぎ」 『闘争本能というか、狩猟本能というか……音羽の為と思うと何でも出来る気がするんだ』 熊2頭を倒した狼とは思えないほど甘えてすり寄ってくる。 この肉を食って生きていくのか……これからの殺伐とした生き方の始まりとして、かなりの衝撃だと思う。 『良い感じの巣穴だな。かなり大きい』 先住民の残した物を片付けながら宗方は体を擦り付けている。 マーキングだろうか? 俺を巣穴に押し込めると宗方は人の姿に変わった。 耳と尻尾は隠せないみたいだけど、毛皮は無くなった。 山奥とはいえ真っ裸は俺が気まずいので、取り敢えず服を着てもらう。 宗方はごそごそと荷物を探り何かを取り出した。 「家庭科室から取ってきた。流石にあのままじゃ食べるのキツイだろ?捌いてくる」 宗方は包丁を手に、にこやかに巣から出ていった。 生きる為の力……これがアルファとオメガの違いだろうか? 獣人としても中途半端な自分の存在がとても虚しくなり……せめて、と服を脱いで獣の姿に変わる練習をした。

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