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アルファの怒り

「うぐっ!!!?」 男が急に苦しみだし、俺の体は地に落とされた。 助かった……のかな? 感覚がないので入れられたのかどうかも分からないなんて情けない。 視線を泳がせるがこの角度からは何も見えない。 「俺の番に手を出すなんて良い度胸だな……」 宗方……宗方だ!! 早く抱きしめて欲しい、早く安心感に包まれたい。 「人間の理性が残っているのが残念だ。お前を殺した後の面倒くささを考えてしまう…」 「う…ううぐ…あ……許…許し……」 何が起こっているのか……殺しては……無いよね? いくらレイプされたからと言って、人殺しは後味悪く感じる。 この手を伸ばしたいのに動かない。 「う…あ……」 名前を呼びたいのに言葉も出ない。 何も出来ない…。 ボロボロと悔し涙を流すだけ。 「音羽…泣かないで」 抱き上げられて、視界が宗方でいっぱいになる。 抱きつきたいのに……動かない腕がもどかしい。 横抱きにされて、さっきの男が地面に転がっている。 何をしたのか、苦しそうにもがいているが血は出ていなそうだ。 巣穴に戻され、落ち葉の中に隠された。 「待ってて……すぐにあいつ捨てて来る」 止める事も出来ずに宗方は行ってしまった。 あんな男の事よりも側にいて欲しい、この不安な気持ちを取り除いて欲しい。 程なくして宗方が戻ってきた。 「あいつベータだった。オメガなら苦しませてやれたのに……」 ベータ?オメガ? かろうじて動かせる様になった指で小さく宗方を呼ぶ。 「音羽……無事で良かった。麻酔だって一歩間違えれば死に至るのに……帰るのが遅くなってごめん……ごめんな」 ギュウギュウ抱きしめられて、波だっていた心が落ち着いていく。 「お…れも……ほか…さわら…て……ごめ……」 まだしどろもどろだが、宗方は聞き取ってくれたのかより強く抱きしめてくれる。 「音羽が謝る事じゃない。もし本当に入れられてたらあいつ八つ裂きにしてたかも知れないけど……そこまで心の狭い男じゃないよ」 良かった……入れられてはなかったみたいだ。 「あのひ…と…ど…した?」 「殺してないよ?音羽に嫌われたくないし……お望みの獣人にしてやったから、心ゆくまで自分の体を調べればいいと思う……」 獣人にしたって……どうやって? 「あの日、音羽の作った団子を拾っておいたんだ……あいつオメガだったら……番になれずに永遠ヒートに苦しまされたのに……」 ヒート……そう言えば俺、ヒートだってあの男が言ってた。 でも宗方に変わったところはない。 「……俺……ヒートだって」 「知ってる。匂いが強烈に誘惑して来る」 「何で……してくれないの?」 だいぶん感覚の戻った手で宗方の頬に触れた。 「煽らないでよ……必死に我慢してるんだから……今の音羽に手を出すような軽い想いじゃないよ」 「最初の時……いきなりした…のに?」 「う……あれはなったばっかで自制が効かなかった…ていうか……音羽と唯一無二の関係になれた事が嬉し過ぎたっていうか……」 珍しく宗方が慌ててる。 その姿がおかしくて、可愛くてつい笑みがこぼれる。 「ヒート中だったら番になれるんだよな?俺…早く宗方と番になりたい……他の奴に触られるのヤダ……」 宗方の胸に顔を擦り寄せた。 「だから煽るなって!!くそっ…麻酔が切れたら……覚悟しといてよね」 「宗方ならひどくされても良い」 「くっ!!こんな時だけそんなに甘えて来るの狡い!!」 宗方が変な声をあげるのを穏やかな気持ちで聞いていた。 麻酔が切れるまで2人でゆっくりと会話を交わした。

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