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第10話

【御 影 視 点 】  結局、御影は朝まで史己の部屋には戻らず、狐の姿で屋根の上で夜を明かした。  まだまだ子供のような風貌の彼が、まさか腹の底で自分をいやらしい目で見ていたなんて。考えるだけで怒りがふつふつと湧き上がる。  それでも一応封印されるまでは主人なので、学校に行く彼を見送りに顔だけ出したが、不機嫌な顔までは改める気はなかった。  史己は相変わらず何を考えているのかわからない無表情だったが、見送りに対しては礼を言って出ていった。昨日の出来事がなければ、こういうやり取りも悪くない。  御影は怒りながらも、久しぶりに誰かを見送るという行為に満足していた。 (でも、私を欲望のはけ口にしようとしたことは許されることではありません!)  自分に言い聞かせるように思い直すと、庭が見える縁側で彼の帰りを待った。物干し竿に干された洗濯物が風で揺れている。静かな時間が過ぎていくのを御影はただ眺めていた。  日が西に傾き始めた頃、史己は汗だくになって帰ってきた。どうやら、走ってきたらしい。縁側に座る御影を見つけると、玄関に入らずまっすぐ庭に入ってきた。 「どこに連れていって欲しいの?」  ただいまよりも先に彼はそう言った。昨日、行きたい場所があると言ったのを覚えていたようだ。意外にも彼は約束を律儀に守る性格らしい。  御影が黙っていると、彼はどこか拗ねたように付け加えた。 「君がどこに行きたいか、言わなくても予想はつくけど」

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