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第3話

 タオルからはトラのにおいを強く感じた。おいらとは違う堂々たる雄のにおいだ。頭がクラクラする。逃げなきゃいけない、敵うわけないと本能が告げている。  伏せていた体を起こそうとすると、首の後ろをガブンと噛まれた。小さい頃にかぁちゃんに運ばれていた時のことを思い出し、体から一気に力が抜けていく。 「ふぁ……トラぁ、離せにゃっ……」 「逃げたきゃ逃げればいいだろ」  トラはそう言いながらも、首の後ろをさらにガブガブと噛んできた。逃げたいのに体に力が入らない。足がクニャンと曲がって、またもやタオルに顔をうずめる格好になった。  トラが首の後ろで囁く。妙に熱っぽい声だった。 「ユキと交尾したいなら、俺がせっくすの仕方を教えてやる。いざって時、失敗したら恥ずかしいだろ」 「そんなの、教えてもらわなくても大丈夫にゃ。本能でなんとかなるにゃ!」 「なんとかって、本当に大丈夫なのかよ。そもそもユキと交尾なんて、万に一つもできねぇんだから諦めろ」  子供を相手するみたいにガブンと噛まれると、雄として認められてない気がして悔しくなった。 「うう、言われなくても、無理なのはおいらが一番わかってるにゃ!」  ユキちゃんは外に出してもらえないし、もし外に出ることができてもおいらを選んでくれない。トラの元へ行くことなんて、簡単に想像できる。  情けない。  トラの強さを思い知って逃げ出したいのに、逃げ出すことすらできない。そんなおいらが選んでもらえるわけないのだ。 「ふに゛ゃぁぁ……!」  ユキちゃんの前で我慢していた涙が、後から後から溢れてくる。 「なんだよ、泣くなよ。そんなにユキがいいのか」  トラはおいらの首からキバを離して、肉球でポフポフと頭の後ろをなでてきた。 「ユキちゃんはかぁちゃんに似てる気がするにゃ。真っ白で、体が細くて、小さい頃に離ればなれになったからよく覚えてないけど、似てる気がするにゃ」 「似てても違うだろ。それにお前はかぁちゃんと交尾したいのか」 「……そう言われると、なんか違うにゃ。交尾しておいらの物になったら、独り占めできると思ったのにゃ」  頭がこんがらがってきて首を傾げると、トラはまたおいらの首の後ろをガブっと噛んだ。痛みはないけれど、やっぱり体からへにゃへにゃと力が抜けていく。 「かぁちゃんの代わりに甘やかされたいんだったら、俺が甘やかしてやる。だから俺にしておけ」  トラの後ろ脚で尻尾を脇によけられた。次の瞬間、お尻にズブンと何かが入ってくる。 「ふに゛ゃーっ! 痛い! 何するにゃ!」 「何って、せっくす。交尾すりゃ独り占めできるんだろ?」  そうだ、交尾をすればユキちゃんはおいらの物になる。 「……てことは、おいらはもうトラの物にゃ?」  納得いったようないってないような複雑な気分だ。だけど、交尾してしまったからおいらはトラのものになったのだ。それはきっと間違いない。 「幸せなアタマだな」  トラに肉球でポフンポフンと頭をなでられ、おいらはちょっぴり温かい気持ちになった。

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