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第2話

「先生、エイト先生、起きれるか?」  体が左右に揺さぶられて、眠りから引き戻される。ボーッとする頭で周囲を見回すと、狭い部屋の簡素なベッド脇にヘビロフが立ち、心配そうにエイトの顔を覗き込んでいた。 「ここは……」 「覚えてないかい?具合が悪くなったからブレッド司令長がここまで運んだと聞いたんだけど」 「え……あ……そういえば」  端麗な容姿を持つ司令長に触れた瞬間、急激にヒートを起こし、咄嗟に用量を超える抑制剤を飲んで気を失ったことを思い出した。 「大丈夫か?そろそろ子供たちの見学が終わる頃だからってカーラ先生に様子を見てくるように頼まれたんだが」 「すみません、ご迷惑をおかけして」  エイトは起き上がりながら、先程の目眩が治まっていることにほっとする。 「いいってことよ。急病人の介抱は日常茶飯事だからな、先生が倒れたのが消防署でよかったぜ。倒れたって聞いて驚いたけど。まぁ、保育は人手不足で現場は大変ってうちのカミさんも言ってたから、先生も相当つかれてたんじゃないか?」  ヘビロフの言葉に、ここ数日持ち帰り仕事が増えて睡眠時間が減っていたことを思い出した。 「そうですね、子供が可愛くて仕事は楽しかったんですけど、まだ慣れないもので、気づかずに疲れが溜まってたのかもしれません」  先程の急激なヒートはそのせいだったのかもしれない、とエイトは考えた。 「うちの子も、エイト先生力持ちで優しくて大好きって言ってるからなぁ。けど無理すんじゃねえぞ」  うんうんと頷きながら心配するヘビロフの様子に、エイトの倒れた原因がヒートだとは知らされてないらしいことに安堵する。  ただ、その原因となった人物がいなくて、どこか喪失感がある。それにあの強力な静電気のような現象は何だったのだろう。そして初対面にもかかわらず、まるで昔から知っているような、無くしたものをようやく見つけたような感覚は……。 「あの、ブレッドさんにもご迷惑をおかけして、お礼をしたいんですけど、どちらに……」 「あぁ、司令長ならさっき救急の仕事が入ったから現場に向かったぞ。あの人も忙しい人だからなぁ。というより、自分から忙しくしてるんだが」  苦笑しながらもヘビロフは呆れた口調で言った。 「え?自分から?」 「あぁ、司令長の耳、見ただろ?あれは馬族なんだよ」  そういえば、頭には焦げ茶の大きな三角耳がついていたような……けど、 「それと忙しくするのとなんの関係が?」 「先生、知らねぇのか。馬族っていうのはスタミナが他の獣人に比べて半端ねぇんだ。体力が有り余って、じっとしてると逆になんも手につかねぇんだと」 「だから今日でも3日ぐらい完徹で仕事してんだよ。それで署長がゴリ押しで1日休ませたと思ったらまた3日仕事して。周りはいつかぶっ倒れんじゃないかってヒヤヒヤしてるんだが、本人はそれが普通みたいで、とんでもねぇって話しさ」  それは確かにすごいスタミナだ。 「よく倒れないですね」 「だろ?ま、それが馬族の習性みたいだからしょーがないよな」  先端の二つに割れた舌をペロっとだしながらヘビロフは肩を竦めた。 「で、先生そろそろ戻らないと、子供たちが待ってるぜ」 「そっそうでした!」  エイトは慌ててベッドから降りると、再度ヘビロフにお礼を言って宿直室を後にした。 「エイトせんせー、もうお腹痛くない?」 「お薬ちゃんと飲んだ?」 「ありがとう、心配かけちゃったね。もう先生は大丈夫だよー」  子供たちの元へ帰ると、幼い顔に心配そうな表情を浮かべてみんながエイトに優しく声をかけてくれた。  純粋にエイトを慕ってくれる子供が可愛くて仕方ないが、まさかヒートによって倒れただなんて正直に言えるわけもなく、笑って誤魔化さざるを得なくて良心が痛む。 「さぁさ、みんな並んで。帰りも車に気をつけて帰りましょうね」  いつまでもエイトを取り囲む子供たちを、カーラ先生があしらいながら列を整えて保育園へと出発した。 「エイト先生は私と殿ね。どぉ?署内でカッコイイ人いた?事務方もチェックしたんだけど、どうもこっちはイマイチだったのよねぇ」  相変わらずのサラに苦笑しか出てこないが、今はこのいつもの日常が有難かった。 「もう一度、会えないかな……」  思いがけない出来事に動揺は未だ収まらず、エイトは再び彼に会いたい思いに囚われていた。

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